【日経バイオテクONLINE Vol.2810】

生物に学び、生物を使う技術革新

(2017.11.24 10:30)
橋本宗明

 こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。少し前にも紹介しましたが、当社で出している様々な技術系の雑誌の編集長らが集まって、「世界を動かす100の技術」という本を10月に出しました。私も日経バイオテク編集部の部員らと一緒にバイオ関連の技術を紹介する文章を書いたのですが、専門家向けというよりは一般ビジネスマンを意識した書籍なので、むしろバイオ以外の分野、自動運転やビッグデータ、フィンテック、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)、インフラ、建築、AI、IoTなどなど、普段馴染みない分野で生じている技術革新のトレンドを把握するために一度手にとってみてください。

「世界を動かす100の技術」はこちらをご覧ください。
http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/P55470.html
 この書籍の発行を記念して、ノンフィクション作家で獨協大学経済学部特任教授である山根一眞氏をスペシャルゲストに招いた講演会を、21日に東京・新宿で開催しました。その時の話題を紹介します。

 講演会は山根さんと、私を含む当社の技術系雑誌の編集長4人との対談形式で、最初に山根さんが書籍に登場する中から注目する技術を選んで紹介、その後、各編集長が自己紹介を兼ねて自分が注目している技術を紹介して、日本の技術力やイノベーションに関する対談を行うという体裁でしたが、さすがにノンフィクション作家として様々な企業、製造現場、技術などを取材している山根さんの知識は該博で、エピソードをふんだんに紹介いただいた結果、時間が短かったせいもあって、対談というよりも公開取材みたいな感じになってしまいました。

 山根さんの話の中で面白かったのは、技術には生物の仕組みを利用したものが多いという指摘でした。実際、二足歩行ロボットなどもそうですが、ロボティクスの分野ではまさに生物の動きを模倣することが研究の1つのテーマになっています。山根さんは対談中、虫かごを取り出して自宅で飼っているカマキリを見せて、「このカマキリの動きをロボティクスに取り入れると、ユニークな作業ができるロボットになるのではないか」などと話されていました。

 考えてみれば、人工知能にしても、各種のセンサーにしても、生物の様々な機能を模倣しようとするところから技術はスタートしています。その際に、生物の仕組みをより詳細に模倣しようとすることが、新たな技術革新につながる可能性を有しています。例えば、講演会の中で私は注目している技術として「クライオ電子顕微鏡」を紹介したのですが、蛋白質を結晶化してX線で構造解析する代わりに、結晶化していない蛋白質の単粒子を多数並べて電子顕微鏡で撮影し、取得した数多くの画像データを基にコンピューターの中で蛋白質の立体構造を再構成するというクライオ電顕の手法は、多数の視細胞で取得したデータを基に脳内で光景を再現するという、動物が物を見る仕組みに通じるものがあります(実際にそういう発想で考案された技術ではないかもしれませんが)。

 バイオミメティクス、バイオミミクリーといった研究領域もありますが、生物の仕組みを研究し、その理解を深めることが新しい技術革新につながったという事例は枚挙に暇がありません。第3世代のゲノム編集CRISPER/Cas9が、細菌の免疫システムを応用したものであるのは有名な話です。脳科学や免疫学、ノンコーディングRNAなど、ライフサイエンスの基礎研究がさらに深まれば、それらの研究をベースにした技術革新はまだまだ出てきそうです。いったいどんな技術革新が飛び出してくるのか、大変興味深い思いがします。

 また、「100の技術」の書籍に登場する技術の中で山根さんが「面白い」と挙げていたものの中に、「自己治癒するコンクリート」というものがあります。オランダの大学教授が考案した技術で、コンクリートの中に細菌と乳酸カルシウムを入れておき、コンクリートにひび割れが発生して水と酸素が供給されると休眠状態にあった細菌が活動を開始し、乳酸カルシウムから炭酸カルシウムを生成してひび割れを修復するというものです。私は書籍の中で「生物を利用した物質生産」というテーマで幾つかの技術を紹介しましたが、生物を模倣した技術に加えて、生物そのものを利用する技術も、今後、様々な産業分野で活用されていくことを期待しています。

 最後になりますが、毎年恒例となっている日経バイオ年鑑を、もちろん今年も発行します。今年は何と30冊目の日経バイオ年鑑となります。12月18日の発行ですが、予約特価での受付を既に開始していますので、この機会にどうぞご購入をご検討ください。

日経バイオ年鑑2018の詳細はこちらをご覧ください。
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/info/books/171218/

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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