【日経バイオテクONLINE Vol.2809】

精密医療で思い出したある外科医の先生の話

(2017.11.22 08:00)
久保田文

 みなさん、おはようございます。日経バイオテク副編集長の久保田です。日本のゲノム医療の現状をまとめた最新号の特集はお読みいただけましたでしょうか。来週半ばまで、特集連動の記事を連日掲載しますので、ぜひ日経バイオテクONLINEをチェックしてみてください。

特集
どうなる日本版の癌ゲノム医療
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400016/111500040/

特集連動◎どうなる日本版の癌ゲノム医療
シスメックス、自由診療向け癌クリニカルシーケンス検査の提供断念
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/11/17/03494/

特集連動◎どうなる日本版の癌ゲノム医療
近大西尾氏、標準治療のある固形癌へのパネル検査提供には課題
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/11/17/03495/

 ここで取り上げた癌遺伝子パネル検査(癌クリニカルシーケンス検査)は、今後本格的に開発が進むであろう精密医療(Precision Medicine)の入り口の技術に位置付けられると思いますが、今回、取材を通じて精密医療の一端に触れ、ある外科医の先生の話を思い出しました。

 数年前、臨床医向け雑誌の記者としてある外科医の先生に、術前の患者説明について取材をしていたときのこと。その先生は、手術に伴う合併症のリスクを説明する際のコツとして、「手術に際して『合併症が生じる可能性は〇%です』と伝えても、患者さんにとって、その数字には意味がない。1人の患者さんにとって、合併症が生じるかどうかは0%か100%。だから私は、『合併症が生じる可能性があります』と伝えることに重点を置いている」と話していました。

 何となく、精密医療も、そういうことなのだろうと思ったのです。現在私たちに提供されているのは、根拠のあるデータに基づく医療です。例えば、「〇〇癌といったあるポピュレーションを限って、〇〇という薬剤が、〇〇%有効である」というデータに基づき、「あなたは〇〇癌なので、〇〇を使えば、〇〇%効くかもしれない」という具合です。

 ただ、精密医療の世界では、究極的にいえば、二人として同じ患者さんはいないわけで、その意味で、ポピュレーションという概念が崩れます。そして、患者さんにとって精密医療に基づいて提供される治療の有効性は、単純化すれば0%か100%のどちらか。精密医療の肌感覚が、ちょっとだけ分かったような気がしました。と同時に、こうした医療を、今までと同じやり方で、果たして国民皆保険制度(保険診療)に組み入れることができるのか。今回のパネル検査はともかくとして、いつかの段階で混合診療の是非などについても、考えなければならなくなるような気がしています。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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