【日経バイオテクONLINE Vol.2804】

製薬企業は将来、何を生業としていくのか?

(2017.11.15 11:00)
橋本宗明

 こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 最近、よく耳にするようになった「モダリティ」について、製薬企業の方と議論する機会があったのでそれについて考えていることを紹介したいと思います。

 モダリティというのは既に皆様ご存じだと思いますが、「低分子」「抗体」「核酸」「遺伝子治療」「再生医療」といった治療に用いる方法論を指す概念で、当編集部では「治療手段」という概念でとらえています。元々、医療機器でMRIとか、X線CT、PETなどといった装置の種類を示す概念の言葉だったそうですが、製薬業界ではもっぱら、上述したような方法論、もしくは分子種的な意味合いで語られることが多いと認識しています。

 製薬業界では元々低分子のモダリティから始まり、分子生物学の進展に伴って生体内にある生理活性物質、サイトカインや機能性ペプチドなどをそのまま医薬品として利用しようという取り組みが広がり、その後、ゲノム解読が完了して以降、疾患に関連する蛋白質を同定したらそれに対する抗体をそのまま医薬品にしようというゲノム創薬の時代に突入します。

 それ以来、抗体医薬が大きな花を咲かせました。2016年に世界市場で売上高トップ10の医薬品をリストアップすると、上からヒュミラ、エンブレル、ハーボニー、レミケード、マブセラ/リツキサン、レブラミド、アバスチン、ハーセプチン、ランタス、イグザレルトと、半分を抗体医薬が占めます。もっと下の方まで見ても、抗体医薬以外の生物学的製剤も含めた数字ですが、世界で年間10億ドル以上を売り上げる121品目(合計3131億8200万ドル)中、3分の1を上回る44品目、金額ベースで言うと45.5%がバイオ医薬ということになります。

 ところが、細胞内へのデリバリーが困難な抗体医薬の標的は膜蛋白質や分泌蛋白質に限られるため、今度は核酸医薬やペプチド医薬といった中分子創薬が注目されるようになって来ました。抗体医薬の特許が切れるに伴い、抗体医薬のバイオシミラーや、バイオベター、抗体医薬を改良した低分子化抗体、抗体薬物複合体(ADC)などの開発も盛んになっています。医薬品医療機器等法の施行で迅速承認が可能になった再生医療、細胞医薬、遺伝子治療などにも光が当たっています。

 さらに言うと、IoT、AIを使った医療/ヘルスケア技術が続々登場しています。例えば米Akili社は、スマホゲームにより認知力を計測、診断、治療する技術を有し、ADHD用のプログラムで臨床試験を行っています。音楽アプリの米Sync Project社は、音楽療法による痛みの軽減でオピオイドの使用削減を目指しています。米Chrono Therapeutics社は、皮膚に貼り付けた器具で患者の状態をモニタリングしながら、ニコチンを投与するデジタル禁煙治療器を開発しています。

 つまり、バイオ医薬の登場により低分子化合物の医薬品市場に占めるシェアは大きく低下したわけですが、今後、モダリティが多様化し、デジタル治療器具も登場する中で、「低分子薬」の守備範囲はますます減っていくと考えられます。

 その一方で、医療が高度化する中で、新しい医療技術を提供するためには、1社だけの力ではできない領域が登場しつつあります。その一例がゲノム医療の先駆けの「癌遺伝子パネル検査(癌クリニカルシーケンス)」。複数企業が診断用の医療機器として薬事承認申請を計画していますが、これは「DNAシーケンサー」「遺伝子増幅などの試薬」「解析プログラム」を組み合わせた製品です。サイエンスが高度化している医療分野では、このように複数企業が技術を持ち寄らなければ開発できない製品はますます増えていくと考えられます。

 他方、製薬産業においては、研究、開発、販売の様々な局面でアウトソーシングの活用が進んでおり、既に製薬企業は「創薬」「医薬品製造」「臨床開発」「医薬品マーケティング」の機能すら外部化しています。その中で、製薬企業は何をコアコンピタンスとし、多様なモダリティの製品や、デジタル治療器具などの開発、流通のどの部分にどのようにして関与していくことになるのでしょうか。そんなテーマで製薬企業の方たちと議論することが出来ました。

 その議論にもちろん答えなどありません。恐らく頭で考えていること以上に大きな変化が今後訪れることになるのでしょう。それでも思考実験は行っておいた方がいいでしょう。「製薬企業は将来、何を生業としていくのか?」。皆様はどうお考えでしょうか?

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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