癌薬物療法の全生存期間と無増悪生存期間との“乖離(かいり)”はなぜ起こるのか

(2017.09.20 08:00)
小﨑丈太郎

 癌の治療法の価値を計る尺度には様々なものが考案されています。最も重視される尺度が、状態はともかく何年生きたのかという全生存期間(Overall Survival ;OS)です。加えて、病勢の進行を止めた期間を示す無増悪生存期間(Progression Free Survival ;PFS)もよく使われます。
 最も単純かつ強力な尺度はOSです。しかしOSの評価には時間がかかるケースも多く、その場合はまずPFSで評価されて、その治療法の力が吟味されることが普通です。これはPFSがOSの予測値を反映するという期待も込められてのことです。しかし、実際にはPFSは良かったが、OSでは既存の治療法と差がつかなかったということが往々にしてあります。
 第21回浜松オンコロジーフォーラム(2017年9月16日)では、乳癌の細胞周期阻害薬(サイクリン依存性リン酸化酵素4/6阻害薬;CDK4/6阻害薬)の臨床試験の結果を基に、この問題が取り上げられました。

 CDK4/6阻害薬は乳癌の分野で注目されています。Palbociclib、Ribociclib、Abemaciclibなどが世界各国で発売、もしくは臨床開発中です。Palbociclibはアロマターゼ阻害薬のレトロゾールと併用群とレトロゾール単独群とで比較され、Ribociclibはプラセボとの比較が行われました。PFSで大きな差が出ましたが、OSでは差が出ませんでした。アベシルマブもPFSでは差がついていますが、OSの結果はまだ出ていませんので、注目されています。
 このフォーラムを主催した浜松オンコロジーセンターの渡辺亨センター長は、米国で1カ月150万円ほどの価格で販売されていることを指摘しながら「極めて魅力的な作用機序で注目されているが、本当に臨床的に価値がある薬かどうかは今後注意深く見守る必要がある」と指摘していました。

 PFSで統計学的な有意差を持って有効性が確認されたのに、OSではそれが出なかったのは何故か。理由はいくつか考えられます、CDK4/6阻害薬は最初のうちはよく効いていますが、効かなくなった途端にそれまでの貯金を食いつぶしてしまうほどの急激な病勢進行を引き起こしているのかもしれません。フォーラムでもそのような質問が出ました。この仕組みは培養細胞でも検討できるのではないでしょうか。

 また臨床的な視点に立つと癌患者の終末期にはいろいろなイベントが起きます。乳癌は骨を始め、脳、肺などの臓器に転移している患者さんが少なくなりません。こうした点も考慮して“OSがなぜ伸びないのか”を検討する必要がありそうです。

 OSが改善しないのはこうした細胞周期を制御する薬剤に共通する宿命なのか、それともその薬のポテンシャルをOSにまで反映させるための使用法が未成熟なためなのか。基礎と臨床の双方からの取り組みが必要なようです。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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