【日経バイオテクONLINE Vol.2762】

新しいバイオマス産業の勃興を実感

(2017.09.13 08:00)
橋本宗明

 皆様、おはようございます。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 先日、京都駅近くで開催された「セルロースナノファイバー」をテーマとするイベントを取材してきました。セルロースナノファイバーは以前、日経バイオテクの特集に掲載したこともありますが、木材を構成するセルロースを直径ナノメートルのサイズにまでほぐした素材で、炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維などの代わりに樹脂と混ぜ合わせて強化樹脂を作ったり、そのユニークな物性を利用して食品や化粧品、その他様々な分野で利用できるのではと研究が進められています。まだ実用化されたのはボールペンのインクや大人用おむつ、スピーカーの振動板などごくわずかですが、製紙会社や化学メーカーなど複数の企業がサンプル供給を開始しており、様々な分野で用途開発した成果が今後現れてくるだろうと強く実感させられました。

 イベントは、京都グリーンケミカル・ネットワークという団体が開催したもので、300人以上が参加。展示会場には、サンプル供給を行っている企業や、製造装置、分析装置のメーカーが出展し、来場者との間で活発にビジネスマッチングを行っていました。

 日本製紙が今年4月にセルロースなのファイバーの量産工場を完成させたことを、日経バイオテクONLINEでも紹介しましたが、セルロースナノファイバーの産業利用をリードしている京都大学生存圏研究所の矢野浩之教授は講演の中で、日本製紙グループの他、大王製紙、中越パルプ、王子ホールディングス、モリマシナリー、第一工業製薬、スギノマシン、星光PMC、特集東海製紙などが既に生産拠点の整備に乗り出していることを紹介していました。

 これらの多くは紙のパルプを原料とするセルロースナノファイバーを製造しているわけですが、水産廃棄物であるカニ殻由来のキチンを原料とするキチンナノファイバー(キチンもセルロースと構造が似た多糖類)や、酢酸菌によって糖質を原料に作り出すナノファイバー(ナタデココと同じ成分)をサンプル供給している企業もあります。原料に何を用いるかによって、手に入るセルロースナノファイバーの物性も異なるし、何よりもコストに影響が出そうです。

 で、これらセルロースナノファイバーを用いて何が出来るのかということですが、まずは各種の樹脂やゴムなどに混ぜることで、耐久性を強化したり、硬く軽量な材料にしたりして、自動車の車体やタイヤ、建築材料などに利用することが検討されています。分散性を高めれば透明なフィルムやシートになるので、太陽電池や電子部品の基板に利用することも検討されています。また、ファイバー同士が水素結合を起こしてネットワークを構築して賦形性が得られるものの、少し力を加えると水素結合が切れてしまうという特性を生かして、食品や化粧品、その他様々な用途に利用が検討されています。その一例が早く書いてもかすれないゲルインクボールペンへの利用ですが、スプレー可能でたれないゲルなど、化粧品業界などで大いに注目されていることも紹介されていました。

 目下の課題はコストで、現在はkg当たり数千円するところを、用途開発を進めながら2030年にkg当たり300円から400円にすることを目標に掲げてコストダウンをしていくということです。現在は表面をどのように修飾すればどのような物性の材料になるかが開発の焦点になっているようですが、いずれ、コストダウンのためには原料の植物(藻類も含む)の育種や栽培方法なども注目されるようになるはずです。そうなれば、ゲノム編集をはじめとするバイオテクノロジーの出番となることでしょう。

 セルロースナノファイバーによる新しいバイオマス産業の勃興が、バイオテクノロジー産業の拡大にもつながると期待しています。

 本日はこの辺りで失礼します。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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