【日経バイオテクONLINE Vol.2757】

ベンチャーが生み出すイノベーションの威力

(2017.09.06 08:00)
橋本宗明
21.5haの鶴岡サイエンスパーク全景(左手の建物は鶴岡中央高校。その校庭と同じ奥行きで、右側の道路までの一角)
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 皆様、おはようございます。日経バイオテク編集長の橋本です。

 少し前に日経バイオテク本誌の特集として掲載した「世界の製薬企業売上収益ランキング」の記事を見て改めて思ったのは、米Gilead Sciences社や米Amgen社、米Biogen社、アイルランドShire社、カナダValeant社、米Celgene社といったベンチャー企業が、大手の一角にしっかりと食い込んできていることです。

世界の製薬企業売上収益ランキング(2016年度)
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400016/071900032/

 言い古されたことですが、やはりイノベーションの担い手はベンチャーであり、ベンチャーがイノベーションを推進するエコシステムをいかに作るかが、バイオ産業全体に不可欠なのだと思います。そんなわけで、ベンチャーの振興について議論する場を設けるべく、セミナーを開催することにしました。

 セミナーの人選はまだ調整中の部分もありますが、まずは厚生労働省と経済産業省の方に、両省のバイオ産業施策とその中におけるベンチャーの位置付け、ベンチャー振興に対する考え方などを紹介してもらおうと考えています。ちょうど各省庁の2018年度予算の概算要求がまとまったところなので、その内容の紹介も含めて話してもらうつもりです。

 その上で、当のバイオベンチャー関係者やベンチャー投資に関わってきた方々、製薬企業でベンチャーとの連携などに関わっておられる方を交えて、日本のバイオベンチャー振興は現状の方向でよいのか、課題は何か、これまでの議論とは異なる視点が必要ではないか、などなど、議論をする機会を設けたいと考えています。皆様奮ってご参加ください。

バイオベンチャー振興策を議論 9.28セミナー
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/info/sl/17/08/29/00041/
 さて、8月下旬に鶴岡市の慶應義塾大学先端生命科学研究所で開催されたバイオ・ファイナンス・ギルドの実験研修に参加してきました。今年はゲノム編集や無細胞蛋白質合成の実験をやることができ、日頃取材で話に聞いていることを、実際に手を動かしてやってみるという貴重な経験ができました。

 毎年、この実験研修のために鶴岡市を訪問し、慶應大先端生命科学研究所が立地するサイエンスパークの周辺がどんどん発展していくのを見て、大学とそこから生み出されたベンチャーが起こすイノベーションの威力をまざまざと見る思いがします。山形県と庄内地域の市町村が大学誘致の取り組みを開始したのは1996年のことだそうで、この取り組みを受けて2001年に慶應大の先端生命科学研究所(先端研)が鶴岡市北西部に開設されます。

 最初は隣接する鶴岡中央高校よりもはるかに小さいバイオラボ棟と称する建物が田園地帯にポツンとあるような状態でしたが、その後、2004年以降数回にわたって敷地を拡張し、研究機関やベンチャーなどが入居する施設や、クモ糸ベンチャーとして知られるSpiberの工場などが建設され、現在は7.5ヘクタールの敷地にまで拡張。さらにその隣接地14ヘクタールの土地を、都市開発ベンチャーとして2014年に設立されたYamagata Design(鶴岡市)が取得して開発に着手し、今夏には、2018年のオープンを目指して、宿泊滞在施設と子育て支援施設の工事が始まりました。これら施設と、さらに研究開発ゾーンとされる施設の整備が完了すると、合計21.5ヘクタールの鶴岡サイエンスパークが出来上がります。Yamagata Designの総事業費は100億円に上る計画で、同社の山中大介代表取締役は、この計画を実現するために庄内地域の企業など39社から約22億円の資本金を得た他、22軒の農家を回って用地を手当てしてきたといいます。

 慶應大の誘致などに際しては、鶴岡市だけでなく山形県も資金を拠出しているわけですが、鶴岡市自体はこれまでに土地や建物の整備に合計29億円を投じてきたとのことです。その結果、現在サイエンスパークで働く人は、大学の研究者なども含めて約400人に上り、来年オープンする宿泊滞在施設などのスタッフも考慮すると、今後もどんどん人口は増えていきそうです。400人というとそんなに多くないと思う人が多いかもしれませんが、毎年1000人ずつ人口が減り、2015年に13万人を割り込んだという鶴岡市において、若年層の雇用を生み出しているサイエンスパークは人口減少対策という意味でも重要な位置付けを有しているとのことです。

 この間に、慶應先端研発で設立されたバイオベンチャーは、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズやSpiber、メタジェン、サリバテックなど6社に上り、これらの企業も雇用に貢献しています。慶應大発ではないものの、都市開発ベンチャーであるYamagata Designも、先端研があったからこそサイエンスパークの事業化に乗り出したわけで、先端研を中心とするイノベーションを支えるベンチャーの1つです。ベンチャーこそがイノベーションの担い手という言葉に嘘はないと、鶴岡市を訪れるたびに思います。

 本日はこの辺りで失礼します。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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