【日経バイオテクONLINE Vol.2747】

ゲノム情報が身近にある世の中ってどんなのだろう

(2017.08.23 11:30)

 皆様こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 癌クリニカルシーケンスを巡る企業の動きがこのところ急速に活発化しています。中外製薬は7月27日に開催した決算説明会で、スイスRoche社傘下の米Foundation Medicine社の癌関連遺伝子の網羅的解析サービスについて、日本で展開することを検討していると説明しました。8月7日には日立ハイテクノロジーズが、トランスジェニックの子会社のジェネティックラボと提携して、癌クリニカルシーケンスの受託解析サービスに乗り出すと発表。翌8月8日にタカラバイオが大阪大学とゲノム医療の社会実装に向けた連携推進協定を締結し、同大学内にラボを設置して癌クリニカルシーケンスを開始すると発表しました。いずれの話題も既に記事にしているので下記の記事をお読みください。

中外製薬、米Foundation Medicine社の癌遺伝子解析の国内展開検討中
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/07/27/03016/
日立ハイテク、ジェネティックラボの癌クリニカルシーケンスを販売へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/08/07/03068/
阪大病院、クリニカルシーケンスでタカラバイオと提携
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/08/08/03077/

 ゲノム情報に基づく事業化は、このように医療分野から進んでいくというのがもっぱらの見方ですが、一方で、「誰もが自分のゲノム情報を持つ時代」を視野に入れたユニークなベンチャーも立ち上がりました。

 ベンチャーはカリフォルニア州にある米Illumina社のインキュベーション施設に本社を置くAWAKENS社で、それぞれエムスリー、DeNA、ソニーとエムスリーの合弁であるP5でゲノム関連事業を手掛けていた3人の日本人の若者が共同で設立しました。

 同社の取り組みが既存の消費者向け(DTC)遺伝子検査サービスと一線を画すのは、ゲノム情報の囲い込みなどは意図せず、個々人が当然のように自分のゲノム情報を持ち歩くような時代が来ることを想定して、その意味付けに焦点を当てた事業展開を計画していることです。詳細は、日経バイオテクONLINEの記事で紹介しましたのでそちらでお読みいただきたいですが、例えば誰もがスマホに自分の全ゲノム情報を入れて持ち歩いて、飲食店でスマホをかざせばゲノム情報に合った食事が提案されたり、スポーツクラブでスマホをかざせばゲノム情報に合った運動プログラムが示されたり、学習塾でスマホをかざせばゲノム情報に適した学習方法が提案される、といったイメージのサービスを計画しています。ゲノム解析やデータの保管、論文などに基づくゲノムデータの解釈情報はAWAKENS社側で用意することで、各企業は自分たちではゲノムデータを取り扱うことなく、ゲノム関連の製品やサービスを提供できるという仕組みです。

ゲノム情報の活用を促す事業モデルのAWAKEN

https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/021500017/082300084/

 実際にゲノムデータの中にユーザーが有用だと感じることができる情報がどれだけあるのかがポイントになりそうですが、その点は世の中で進められている研究にゆだねて、同社ではあまたある論文情報をキュレーションし、エビデンスレベルを評価した上で、解釈情報を提供することに徹します。まずは米国で消費者向けにサービスを立ち上げるとのことですが、解釈情報の中から遺伝性疾患などに関するの論文は除くことによって、米国の規制をクリアできると考えているといいます。

 ユーザー自身は1回だけ全ゲノム解析を行い、そのデータをスマホに入れて持ち歩けば(あるいはセキュリティのしっかりしたクラウドなどに保管すれば)いろいろなところで自分のゲノム情報に応じた製品やサービスの提供を受けられるというわけです。現在の全ゲノム解析のコストは10万円を上回りますが、数年後には数万円から1万円程度にも下がるとされているわけですから、本当にそんな世の中がやってくるのかもしれません。そんな未来を想定し、グローバルでの事業展開を目指して米国で起業した同社の今後の展開に注目していきたいと思います。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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