【日経バイオテクONLINE Vol.2741】

患者1人からビッグデータが得られるか

(2017.08.09 08:00)
小崎丈太郎

 昨日、台風の余韻が残る大阪大学医学部附属病院で、着任早々の谷内田真一教授(国立がん研究センター研究所と兼務)らが、タカラバイオと共同で、クリニカルシーケンス事業を開始すると発表しました。

 谷内田教授は米国のJohns Hopkins大学留学中に膵臓癌のゲノム変化を詳細に追跡し、発見時に進行していることが多いこの癌も他の固形癌同様、長期にわたって、進化、増殖することを明らかにした業績で世界的に著名な癌研究者の1人です。同氏を教授に迎えた阪大病院がクリニカルシーケンスを開始することも当然といえます。ところで谷内田教授は、東京工業大の研究者と共同で、国立がん研究センター中央病院を受診した大腸癌患者の腸内細菌も研究しています。癌ゲノムの専門家ですが、腸内細菌も大きな関心事のようです。

 医療、医学の領域における今年のトピックスは、医療ビッグデータを研究開発に活用するための仕組みを定めた次世代医療基盤法の成立です。医療ビッグデータというと、膨大な症例数を扱うことを想像します。しかし、少数の患者や健康人について得られる情報を考えても立派なビッグデータではないかと思います。1人の患者の癌クローンが時間の経過と共に様々に変化するクローン進化は谷内田教授の専門ですが、これも免疫細胞による淘汰圧あっての結果だろうと思います。当然、免疫細胞の多様性も知りたいし、時間と共に変化するでしょうから、多時点のサンプリングが必要となります。最近は、疾病ごとに異なるリンパ球プロファイルにも関心が集まっています。もちろん、患者の生殖系列のゲノムも知りたいところです。こう考えると少数の患者、極端に言うと1人の患者を徹底的に調べてもビッグデータが得られるのかもしれません。言うまでもなく、大阪大学はオートファジーや腸管免疫研究の聖地です。こうした事象のデータが複合的に解析されると、癌を巡る生体のダイナミズムを知ることができるかもしれません。

 大阪大学のクリニカルシーケンスから、その広がりを勝手に構想してみました。短いですが、これで失礼します。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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