【日経バイオテクONLINE Vol.2736】

動き出した武田薬品のベンチャー設立支援

(2017.08.02 13:00)
橋本宗明

 皆様、こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 昨日、武田薬品工業が湘南研究所からのスピンオフで、SEEDSUPPLY(神奈川県藤沢市、樽井直樹社長)というベンチャーを設立したと発表しました。元同社の社員が中心となって設立した会社で、武田薬品が一部出資し、湘南研究所内に本社を置いて活動します。武田薬品が研究開発拠点の再編に伴って立ち上げた、アントレプレナーシップベンチャープログラムというベンチャー設立支援制度を利用して設立された初めての企業となります。

 武田薬品は、研究開発領域を癌、消化器系疾患、中枢神経系疾患とワクチンに絞り込むと同時に、国内の湘南研究所では、中枢神経系疾患と再生医療の研究開発を担うとして、研究開発拠点の再編を進めてきました。その一環として、研究所の社員に対してベンチャーの設立を促しており、今後も複数のベンチャーが設立される見通しです。

武田薬品の元社員、創薬スクリーニング手掛けるベンチャー企業設立
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/08/01/03034/
 この武田薬品の取り組みに対しては、様々な意見があることでしょうが、単に退職割増金を出したり、アウトプレースメント会社に依頼して転職先を見つけるというだけでなく、出資したり、オフィスや機器・設備を貸与して起業を後押しするというのは、退職する人にとっては選択肢が増えるわけでもあり、前向きに捉えるべきことだと思います。もちろん、大企業を志向して入社した人の中には、起業に不向きな人も多数いるとは思いますが、ONLINEのコラム「シリコンバレー創薬騒動」に赤間勉さんが書かれているように、同僚が設立したベンチャー企業に「一般社員」として参加して、成功を夢見るという選択肢だってあるはずです。

 思えば研究開発方針の見直しなどにより、研究員が独立してベンチャー企業を設立するというのは欧米ではよくある話で、それがベンチャーの層の厚みにも結びついています。日本では雇用慣行もあって大企業から人が出て来ず、それがベンチャーの人材難につながっていると指摘されてきました。その大企業が社員の独立を促し、これを1社だけでなく多くの企業が行うようになれば、仮に起業に失敗しても次の転職先は見つけやすくなるはずです。そして、大企業が起業支援と同時に中途採用も積極的に行って社会全体で人材の流動化が進めば、ベンチャーの人材難も解消され、働く側も適材適所で能力を発揮できるようになるはずです。

 ベンチャーの設立支援制度などを設けて起業を後押しする取り組みは、武田薬品が初めてというわけではありませんが、これまでの多くの取り組みは散発的で、社会全体に波及するには至っていません。ただ、武田薬品の今回の取り組みは、業界内でも大いに注目されているということなので、後に続く企業が出てきて、ベンチャーがイノベーションを推進する社会の実現へとつながっていくことを期待しています。

 最後に少しお知らせです。2015年に当社が出版した「世界最高のバイオテク企業」という書籍があります。米Amgen社の元CEOが、1980年代頃の草創期から2000年頃までに掛けて経験してきたことを記したものですが、大変良い書籍なのでぜひお読みいただきたいと、以前、メールマガジンで紹介したことがあるのですが、紹介した途端に品薄になってしまって、購入できなかった方もおられるかもしれません。判型が少し変わってしまうのですが、Amazonのオンデマンド版でお読みいただけるようにしました。以前も紹介しましたが、バイオ関係者だけでなく、どんな業界にも役に立つ、普遍的な企業の経営書なので、まだ読まれていない方はぜひこの機会に手に取ってみてください。

「世界最高のバイオテク企業」の詳細はこちら
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/info/books/150427/

以前、この書籍を紹介した記事はこちらです。
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/mag/btomail/16/11/29/00151/

 本日はこの辺りで失礼します。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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