【日経バイオテクONLINE Vol.2712】

外来種イコール悪でいいのか?

(2017.06.28 08:00)
小崎丈太郎

 最近、テレビや雑誌で河川や湖沼の外来生物を探索し、それを駆除する企画が大はやりですが、違和感を禁じ得ません。個体数を増やし、生息域を拡大することは生物にとって最も重要なミッションです。「外来種」という言葉には人為的な行為が介在し、他の地域から入ってきた種というのが定義なようですが、人為的な行為が問題にされる理由が分かりません。風に乗って侵入したものはOKで、人為的なものは駆除するという区分けが理解できないのです。

 千葉県の印旛沼で繁殖しているカミツキガメのように人間に危害を加える外来種が駆除の対象になるのは当然だと思います。(在来種のスッポンでもかまれると大変ですが)。しかし明らかに人畜無害な生物をいい大人が時に税金まで使って駆除しようというのは奇妙なことだと思っています。

 人間に危害を及ぼす、あるいは漁業など地場の産業に悪影響があるならば、駆除も当然だと思いますが、最近は在来種の生存を圧迫するという理由で駆除の対象になっています。でも生物の世界は、元来そういうものではなかったのでしょうか。在来種だっていつからそこにいたのか分かったものではありません。

 最近では国内外来種という言葉もあるそうです。関西の在来種だったゲンゴロウブナは関東では国内外来種に相当するので駆除の対象だそうです。子供の頃に見た昆虫の図鑑ではクマゼミは関西の在来種でしたが、最近ではあの独特のピッチの鳴き声は関東でも耳にするようになりました。つまり関東では国内外来種です。おそらく地球温暖化が影響して生息域を広げたのだと思います。地球温暖化自体を擁護はしませんが環境の変化に応じて、生息域を変化させるのは生物にとって自然なことです。いつまでも同じ地域に同じ生態系が維持されるべきという前提が間違っているのではないでしょうか。在来種と認定されている種の中にだって農業や漁業の影響を受けて現在の分布域となっている種もいるのではないかと思います。

 繰り返しますが、生活や産業を脅かすものは駆除しても、無害な生物を外来種であるというスティグマを張り付けて駆除することに科学的根拠はあるのでしょうか。おそらく現在の外来種対策の背景には多分に人々の感傷があります。太宰治は短編の「富嶽百景」の中で「富士には月見草がよく似合う」と書きました。月見草も江戸時代に日本に持ち込まれたメキシコ原産の外来種です。「月見草を駆除せよ」と誰も言わないのはなぜでしょうか。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

PR・告知製品・サービス一覧人材・セミナー・学会一覧