【日経バイオテクONLINE Vol.2677】

バイオテクノロジーによるものづくり産業の胎動

(2017.05.10 11:00)
橋本宗明
【訂正】当初、社名を誤ってUniGenとしていましたが、UniBioの誤りです。お詫びして訂正します。

 こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 バイオテクノロジーがもたらす経済活動を意味するバイオエコノミーという言葉が、国際的に注目されています。明確な定義は無いものの、地球環境問題や食糧問題に配慮しながら、産業を振興し経済を活性化するためにバイオマスやバイオテクノロジーを活用していこうという概念で、国などが政策に関して用いる場合が多いようです。代表的なのが経済協力開発機構(OECD)が2009年に発表した「2030年に向けてのバイオエコノミー:政策課題の設定」で、その中で加盟国における2030年のバイオエコノミーの規模を全国内総生産(GDP)の2.7%と予想しています。日本でGDPの2.7%というと、食品産業や化学産業のシェアを上回る規模です。

 2012年には欧州委員会が「バイオエコノミー戦略」を公表し、米Obama政権も同年4月に「National Bioeconomy Blue Print」を発表しています。2016年には米エネルギー省(DOE)と米農務省(USDA)が、10億tのバイオマスを用いて2030年に化石由来燃料の25%を代替することを目指す「Billion Ton Bioeconomy」の構想を打ち出しました。英国では合成生物学でバイオエコノミーを推進する戦略が発表され、EUではデンマーク、フィンランド、ドイツ、オランダなどに続き、2016年にはスペインやイタリアでも戦略が策定されています。

 このバイオエコノミーの中核となる1つの分野が生物を利用した物質生産です。日本でも経済産業省が「スマートセルインダストリー」と称して、ゲノム編集技術などを利用した生物による物質生産の研究開発を進めています。これまで生物を利用した物質生産の分野では、付加価値の高い医薬品分野が出口となってきましたが、医薬品に限らず、食品、化粧品、化学品など様々なものを生物の力を借りて製造することによって、化石由来燃料の使用を減らしたり、環境への負荷を抑えることが期待されているわけです。

 ベンチャー企業を取材していると、このものづくりの分野でも新しい会社が立ち上がってきていることに気付かされます。5月1日に紹介した新潟市のUniBioという会社も、そんなものづくり企業の1つです。

UniBio、植物由来EGFを化粧品向けに本格供給開始へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/021500017/042800061/

 この会社は植物を用いて蛋白質を一過性に発現させる技術を有し、有用蛋白質の製造の事業化を目指しています。植物一過性発現技術というのは、目的の遺伝子を挿入したウイルスベクターなどを植物の葉っぱなどから入れて、植物体内に目的蛋白質を作らせる技術で、植物自体の遺伝子を組換えるわけではないので、遺伝子組換え植物を作製して目的蛋白質を作らせるのに比べて非常に短期間で量産が可能です。このため、例えば新型インフルエンザなど、感染症の大流行に対してワクチン抗原や治療用抗体などを速やかに生産するのに適した技術と目されています。実際、エボラ出欠熱の治療薬ZMappもこの技術を用いて作られています。

 UniBioの結城洋司代表取締役は、新潟TLOの代表取締役も務めており、この技術を有する海外のベンチャーを日本の製薬企業などに紹介するなどして来ましたが、2011年に自ら会社を立ち上げて事業化を目指すことにしました。その同社がまず焦点を当てたのが化粧品向けのEGFの製造です。化粧品用のEGFとしては大腸菌で発現させたものが流通していますが、リフォールディングが不十分だと活性が得られません。そこで、植物に製造させたEGFである点をセールスポイントにして、化粧品メーカーなどに原料供給を進めようとしています。植物に製造させたEGFとしては、アイスランドのベンチャーが組換えオオムギに製造させたものを使った化粧品を世界各国で販売しており、UniBioのEGFもうまく需要をつかめばそれなりの販売量になるかもしれません。

 技術は海外企業から用途を限定してライセンスを受けたもので、ワクチンなどの製造に用いる権利は有していませんが、出来るところで需要を見つけて事業化に結びつけ、新潟市にバイオの製造拠点を設けようとしているわけです。このようなものづくり系のバイオ企業が各地で勃興していけば、日本でもバイオエコノミーはそれなりの市場規模を獲得できると期待しています。

 本日はこの当たりで失礼します。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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