【日経バイオテクONLINE Vol.2670】

ノーベル賞効果で基礎研究の支援策強化へ

(2017.04.26 08:00)
高橋厚妃

 皆様おはようございます。日経バイオテクの高橋厚妃です。文部科学省の「基礎科学力の強化に関するタスクフォース」は、2017年4月24日、「基礎科学力の強化に向けて―『三つの危機』を乗り越え、科学を文化に―」と題する報告書を公開しました。基礎研究の振興と若手研究者の支援の強化に向けた具体的な対応策がまとめられています。

 そもそも同タスクフォースが発足したのは、2016年10月、東京工業大学の大隅良典栄誉教授のノーベル生理学・医学賞受賞が決まったことがきっかけです。大隅栄誉教授は、受賞決定直後の記者会見から一貫して、現在の国内の基礎研究への資金配分などに対して課題があることを指摘されてきました。

ノーベル賞受賞決定の大隅氏、質疑応答で基礎研究の重要さを強調
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/16/10/03/01629/

大隅氏、「研究費の絶対額の増大と研究しやすいシステム作りを」
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/16/10/04/01636/

祝!大隅氏受賞決定、基礎重視の流れはできるか
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082200006/100500003/

大隅栄誉教授、「当時が今の研究環境だったらノーベル賞取れなかった」
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/16/11/09/01847/

 受賞発表直後にあたる、2016年11月、文科省が同タスクフォースを設置し、検討を続けてきました。今回公表された報告書では、(1)基礎研究の研究費と研究時間の不足、(2)若手研究者の雇用と研究環境の劣化、(3)研究拠点の整備の遅れ――という3つの「危機」に対する具体的な対応策と、それに取り組む時期(直ちに取り組むか2018年度以降か)を定めています。直ちに取り組むべき事項として、(1)では、科学研究費(科研費)改革が挙げられています。科研費の新規採択率は、新規応募件数が増加しているものの、2014年度は26.9%、2015年度は26.5%、2016年度は26.4%にとどまっているのが現状です。そこで、今後新規採択率を30%まで上げる方針を打ち出しています。また、若手支援として過去の実績にとらわれずアイデアの斬新さを評価する「挑戦的研究」を創設するそうです。他にも、研究費の使い勝手の改善のため、使用ルールの合理化や標準化の促進を行うといいます。2018年度以降に取り組むのは、研究テーマの設定段階から産業界との連携を深め、民間投資を呼び込む仕組みを構築することなどです。

 (2)では、直ちに取り組む事項として、博士後期課程の学生が海外の研究者との共同研究などの経験を積む「若手研究者海外挑戦プログラム」を実施したり、大学や研究機関などによる若手研究者へのポスト振替を支援するそうです。2018年度以降に取り組むのは、「卓越研究員制度」を改善・拡充し、大学と企業との間のクロスアポイントメントによるポストを奨励することなどが挙げられています。

 (3)では、世界トップレベルの研究者を集めた研究拠点(文科省の世界トップレベル研究拠点プログラム事業)を拡充し、産業界からの大規模投資を呼び込む、また、ビッグデータの解析に対応したコンピューターのインフラの充実を図る、というものでした。2018年度以降に取り組むのは、オープンラボの整備や国際研究拠点を構築することなどが挙げられています。

 報告書でも指摘されていることですが、今までは基礎研究の重要さや課題点の指摘は、ノーベル賞受賞の直後の一時期しか世間の注目を集めていませんでした。このタイミングで同報告書が出たことで、2018年度以降に取り組む事項は、2018年度の文部科学省の概算要求にも反映されてくることでしょう。今後、引き続き注目していきたいと思います。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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