【日経バイオテクONLINE Vol.2660】

セルロースが新しい素材産業の主役に

(2017.04.12 08:00)
橋本宗明

 皆様、おはようございます。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 今週月曜日に公開した日経バイオテク最新号の特集記事をもうお読みいただけたでしょうか? このところ本誌の特集やリポートでは、創薬や再生医療といった医療分野の話題を多く取り上げてきましたが、環境や化学、ものづくりの分野でのバイオテクノロジーやバイオマスの利用を後押しするのも本誌の役割です。そこで、このところ脚光を浴びている植物由来の新素材であるセルロースナノファイバーについて取り上げました。

 ご購読いただいている方はぜひ特集記事をお読みください。

特集 セルロースナノファイバー
木質バイオマスが素材革命を牽引、インクから自動車まで広がる用途開発
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400016/040500022/

 セルロースナノファイバーは、植物体を構成する繊維質のセルロースを、直径がナノメートルサイズになるまで解きほぐした極微細な天然繊維のことです。この繊維は、軽量でありながら鋼鉄並みかそれ以上の強度を有し、熱にも強い性質を有します。しかも安価で大量に入手可能になると見られることから、炭素繊維やガラス繊維に代わるプラスチックなどに混ぜる強化剤として、自動車のボディや内装部品、家電などの筐体、建築材料など、実に様々なところで利用されるようになるのではないかと期待されています。

 現在、様々な製造方法が検討されているわけですが、その中でも特に注目されているのが、有機触媒で処理することで通常の紙パルプよりも数万分の1の直径3nmから4nmに均一に分散させるTEMPO酸化技術です。この処理をすると繊維の表面が均等にマイナスに荷電されるため、微細な繊維が反発しあって均一に分散するという現象が起こります。ここまで細かく均一に分散すると透明になり、薄く広げると酸素バリアー性を有する透明なフィルムになるので、食品や医薬品の包装材料への利用も期待されています。また、TEMPO酸化処理をしたセルロースナノファイバーの表面には多数のカルボキシル基が存在するため、各種の金属イオンを結合させて、触媒や消臭、抗菌などの性質を持たせることもでき、さらに用途は広がりそうです。

 こうしたことから、製紙大手の日本製紙は今年、セルロースナノファイバーの量産工場を設け、強化樹脂の量産に乗り出します。日本製紙以外の製紙会社や化学メーカーも、セルロースナノファイバーの開発、製造に名乗りを上げています。

 日本製紙や王子製紙(現王子ホールディングス)といった製紙大手は以前から、劣悪な環境下でも生育できるような環境ストレス抵抗性の遺伝子組換えユーカリの研究開発や、セルロース由来のバイオエタノールの製造研究を手掛けるなど、木質バイオマスの産業応用に取り組んできました。セルロースナノファイバーは、そんな製紙会社のインフラを生かした、木質バイオマスの出口として大いに注目されているというわけです。今から15年前の2002年春に、ある製紙会社の研究者にインタビューしたところ、当時ポリ乳酸などの化成品の原料として先行していたトウモロコシに代わって、「セルロースがバイオマス化学産業の主役になる」旨を語っておられましたが、その実現が視野に入ってきたというところでしょうか。

 もちろん、自動車や家電、建材などの分野で幅広く利用されるようになるためには、量産化技術の開発や大幅なコストダウンが必要ですが、それが実現すれば化石燃料をプラスチックなどの原料として使用する量を削減でき、温室効果ガスの排出量削減にも貢献できるはずです。現時点ではまだセルロースナノファイバーの用途開発や製造技術の開発が技術開発の焦点になっている状況ですが、いずれはセルロースナノファイバーの製造に適した樹木を育成するための品種改良が試みられるようになり、遺伝子工学などの技術の出番も増えるはずです。

 環境、化学やものづくりの分野では、セルロースナノファイバー以外にも、組換え微生物に作らせた人工クモ糸や、藻類由来のジェット燃料などの実用化を目指した研究が進められています。組換え植物や組換えカイコなどを用いた医薬品やワクチンをはじめとする蛋白質の生産や、組換え微生物を用いた化成品の生産なども様々な研究がしのぎを削っているところです。日経バイオテクでは今後も機会を見てこうした分野の動向を皆様にお伝えしていきたいと思っていますので、どうぞお楽しみに。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

PR・告知製品・サービス一覧人材・セミナー・学会一覧