【日経バイオテクONLINE Vol.2655】

カナダに行って再認識した日本の最先端の再生医療の取り組み

(2017.04.05 08:00)
高橋厚妃

 おはようございます。日経バイオテクの高橋厚妃です。まだ桜を見ておらず、春になった実感を持てずにおります。みなさんはいかがでしょうか? さて、2017年2月のメールで、カナダ・オンタリオ州を訪れ、再生医療の研究開発について取材をしていることを書きましたが、次号2017年4月10日号のリポートでは、現地での取材内容をまとめました。リポートでは、オンタリオ州が注力している再生医療の実用化に向けた取り組みに焦点を当てています。そこで本メールでは、それ以外に感じたことを書きたいと思います。

 オンタリオ州の再生医療の研究者は、ES細胞やiPS細胞を利用した細胞医薬の研究開発に注力しているようでした。「移植後に体内で腫瘍化することを防ぐため、iPS細胞を分化させた細胞を純化させる方法(未分化のiPS細胞を除去する方法)の確立が課題だ」と話している研究者が複数おり、カナダでも日本でも課題の意識が同じであることを実感しました。

 オンタリオ州に滞在中、分化させた細胞を純化させる技術については、カナダLunenfeld-Tanenbaum Research InstituteのAndras Nagy教授が取り組みの一部を話してくれました。ゲノム編集技術を利用して未分化のiPS細胞に自殺遺伝子をあらかじめ組み込んでおき、純化の際に薬剤をかけて未分化のiPS細胞を除去する研究開発を手掛けています。論文執筆中のため、具体的な遺伝子名など詳細は明かされませんでしたが、「iPS細胞を利用した細胞医薬の実用化には、腫瘍化を防ぐfailsafe(安全装置)の仕組みを考える必要がある」と力を入れて説明していたのが印象的です。

 振り返れば日本では、2016年4月に、慶應義塾大学医学部循環器内科学教室の遠山周吾助教、藤田淳特任講師、福田恵一教授らの研究グループが、分化させた心筋細胞からヒト未分化iPS細胞を除去する方法を開発し、米科学誌Cell Metabolism誌で発表しています。これは、未分化のES/iPS細胞と、分化させた心筋細胞の代謝が異なることを利用したもので、グルコースとグルタミンを除去した培養液で培養すると、未分化のES細胞やiPS細胞は死滅する仕組みです。味の素が培養液の製品化を目指しています。

 実用化のためには、純化の技術と共に、最終製品の造腫瘍性を評価する方法の確立も重要です。日本の最近の動きで言うと、国立医薬品食品衛生研究所などが中心となり、造腫瘍性関連試験法の留意点が取りまとめられました。国立衛研などは今後、造腫瘍性関連試験法の留意点が、国際的なガイドラインとなるように取り組んでいきます。そのためには、留意点で提示した試験によって得られたデータの信頼性が必要であるため、現在、日本医療研究開発機構(AMED)の事業である「造腫瘍性関連試験の標準化に向けた多施設比較研究(MEASURE プロジェクト)」で、製薬企業や再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)などと共同で、造腫瘍性評価の実験データを取得しています。日本だけではなく、世界で多能性幹細胞を実用化するための重要な取り組みといえるでしょう。

 オンタリオ州で取材し、もちろんオンタリオ州の再生医療の強みを感じました。それはリポートにまとめたのでぜひご覧頂きたいと思いますが、日本の技術力の高さや評価方法の開発の取り組みについて誇らしく感じたのも確かです。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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