【日経バイオテクONLINE Vol.2643】

iPS細胞研究と異種移植研究の接点

(2017.03.17 08:00)
久保田文

 おはようございます。日経バイオテク副編集長の久保田です。実は今、日経バイオテクの特集に向けて異種移植の取材をしています。

 異種移植とは、ヒト以外の動物種(基本的にはブタ)の臓器や細胞、またはヒト以外の動物種でヒトの臓器を育て、ヒトへ移植するアプローチを指します。詳細は特集で執筆しますが、近年、異種移植を巡る様々な状況が変化し、異種膵島移植を筆頭に異種移植が臨床で試される段階に入りつつあります。

 その取材をしていて強く感じているのが、現在、研究開発が進んでいる再生医療、特にiPS細胞を用いた再生医療の実用化に、異種移植研究で蓄積された知見が活きるのではないかということです。

 というのもこれまでの異種移植の研究は、いかに種の壁を越えるかという研究であり、超急性免疫拒絶、血管性拒絶反応、細胞性拒絶反応というように次から次に出てくる壁を乗り越える研究だったからです。そして実際、様々な免疫抑制剤や移植手技によって、レシピエントの免疫を抑制したり、ドナーへの免疫寛容を誘導し、幾つもの壁を乗り越え、ようやく臨床開発という次のステージが見えつつあるのです。

 先日、iPS細胞ストックプロジェクトの試薬取り違えの件で、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)山中伸弥所長に取材する機会がありました。そこで、山中所長が強調していたのは、ヒト白血球抗原(HLA)の主要3座ホモのiPS細胞を樹立し、主要3座をマッチさせることの臨床的意義はまだまだ明らかではない、ということでした。

キーパーソンインタビュー
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)山中伸弥所長に聞く
「現時点で製造を企業に委託するのは困難、公共性高いストック事業で儲けるべきでない」
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400018/030900008/

 異種移植の取材をしていても、iPS細胞について話が及ぶことが多いわけですが、異種移植の研究者が最も懸念するのが、様々なレベルで拒絶反応が起きる可能性です。そのリスクは臓器によって、疾患によって異なると考えられますが、「主要3座をマッチさせれば(多くの臓器で)大丈夫」と考える研究者は少数派のようです。そして、彼らは、「現在進んでいるiPS細胞の基礎研究に目途が付けば、次に必要になるのは、免疫抑制療法など橋渡しのための研究になる」と口をそろえます。

 iPS細胞の研究は、出口志向のものが多く、まるで実用化が目前のように報道されることも少なくありません。しかし、何十年と蓄積されてきた異種移植の研究の歴史を知るにつれ、iPS細胞の実用化のためにはまだまだやるべきことが多くあるのだと感じずにはいられません。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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