【日経バイオテクONLINE Vol.2641】

バイオ業界はこの約10年でどれだけ進化したか?

(2017.03.15 08:00)
橋本宗明

 おはようございます。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 武田薬品工業が湘南研究所の腎・代謝・循環器領域の研究プロジェクトをカーブアウトする形で、ベンチャーを発足させると発表しました。1月初めに本誌は、武田薬品が湘南研究所の人員削減の一環で複数のベンチャーの設立を検討していることを特報しましたが、その1つが実現したというわけです。

武田薬品、湘南研究所の研究員を300人から400人程度に削減か
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/01/13/02149/

 2017年4月に稼働する新会社のスコヒアファーマに対しては、武田薬品の他、産業革新機構とメディパルホールディングスがそれぞれ19.5%、70.5%、10.0%の比率で出資し、3社の出資総額は100億円に達します。スコヒアが引き継ぐプロジェクトには早期糖尿病性腎症/高血圧症を対象に開発が進められているTAK-272、肥満症を対象とするTAK-792、糖尿病を対象とするTAK-094などがあります。このうちTAK-272はフェーズII、TAK-792はフェーズIを実施中です。

 こうして書いていくとファイザーの中央研究所がカーブアウトしてラクオリア創薬が発足した時のことを思い出します。2008年7月にラクオリアが発足した時には、エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズが38億円を出資したのを筆頭に、ファイザーを含め11社から合計111億円を調達しました。同時にファイザーはフェーズIIの1品目、フェーズIの3品目、前臨床の2品目について、権利をラクオリアにライセンスしました。

 当時の記事は以下をご覧ください。

ファイザーが中研の独立を正式発表、111億円調達し「ラクオリア創薬」が誕生
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/4296/
 
 ラクオリアはこの後、2011年7月に東証マザーズに株式を上場しましたが、残念ながら当初の計画通りにはプロジェクトを進展させることができず、研究所からの撤退や人員削減など、厳しい経営のかじ取りを迫られてきました。もちろん、今後成長していくことも十分期待できますが、少なくとも設立時に思い描いた通りには事業を展開できなかったのは確かでしょう。

 その当時と現在とで、バイオベンチャーの経営をめぐる状況が大きく変化しているのは確かです。多くの製薬企業がオープンイノベーションを唱えて外部からのシーズの導入活動に力を入れています。ラクオリア発足直後の2008年9月にはリーマンショックが発生して世界的な金融危機に陥りましたが、今はベンチャーにとってかなり良好な資金調達環境にあると言っていいでしょう。バイオベンチャーの経営人材や投資、政策関係者は約10年の経験を積み、ベンチャー周りのエコシステムもまだまだ不十分な面はあるにせよ、10年前に比べれば大いに改善しているはずです。

 こうしたことを背景に、スコヒアは創薬ベンチャーの成功モデルになることができるのでしょうか。もちろん、同社の経営に参画する人たちの手腕が何よりも肝要なわけですが、日本のバイオ業界の熟度も問われているような気がします。

 本日はこの辺りで失礼します。

                     日経バイオテク 橋本宗明

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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