【日経バイオテクONLINE Vol.2636】

画期的な新薬が必ずしも歓迎されなくなった時代の創薬イノベーション

(2017.03.08 08:00)
小崎丈太郎

 日本製薬工業協会の政策セミナー「創薬イノベーションと製薬産業の未来像」が3月1日に東京都内で開催されました。タイトルだけを見ると、幅広いテーマですが、今回のセミナーで問われたのはイノベーションの中身です。その答えは、同協会の伍藤忠春理事長の開会のあいさつで明らかにされました。伍藤理事長は肝炎の治療薬や癌の免疫チェックポイント阻害薬を挙げて、「通常、このようなイノベーションの成果で画期的な薬が出たというと世の中から歓迎されるはずだが、この業界の特殊性から、薬価制度の見直しを議論する大事となった」と指摘しました。そして、「イノベーションとは具体的に何を追究していくべきか、単にこれまでのように良いものを作るということだけでは不十分。何が足りないかといえば、コストを効率的に下げるというコスト面でのイノベーションではないか」と指摘し、会場を埋めた製薬業界関係者に対して「その問題にどれだけ注力してきたか。もっと注力する余地があるのでないか」と語りかけました。

 革新的な薬を低コストにしかも短期間に市場に投入することが創薬の新しい命題になりつつあります。それは患者のもとにより安価に迅速に新薬を提供することにもなり、同時に国民皆保険システムを持続可能なものするための道ともいえます。
 セミナーでは、臨床研究のデータを研究機関の壁を超えて広くシェアリングする方法、臨床試験を効率化する政策を日本医療研究開発機構(AMED)の末松誠理事長や厚生労働省医政局の研究開発振興課の森光敬子課長が講演しました。再生医療独特の開発のハードルを下げる再生医療新法が2014年に施行されたのを契機に、本拠地を米国から日本に移した再生医療ベンチャーのサンバイオの森敬太社長は、「この再生医療新法の早期承認制度という画期的な制度は世界中の再生医療ベンチャーが日本をうらやましく思っている」と発言していました。臨床開発のコストを下げ、期間を短くする施策が新しいビジネスシーンをつくった例です。
 同協会の畑中好彦会長は、今後の創薬の大きな方向性としてオープンイノベーションの重要性を指摘していました。「従来の製薬ビジネスの枠を超えた多様な産業との協働、技術、サービスとの融合を進めて創薬イノベーションの実現をしたい」と総括していました。
 イノベーションとは何か? 製薬業界のみならず、研究開発を動力源とする業界に広く共通するテーマです。最後に末松理事長は、「抗体を低分子で作ったらどうか。そのような技術が実現すれば、大規模タンクで抗体を作っている製薬会社はつぶれるんじゃないんですか」と聴衆を“挑発”して、この日のセミナーは幕を下ろしたのでした。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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