【日経バイオテクONLINE Vol.2626】

国民が身近に感じることのできる再生医療を

(2017.02.22 08:00)
橋本宗明

 皆様、おはようございます。日経バイオテクの橋本宗明です。

 1月終わりに開催された再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)のメディア意見交換会に参加し、再生医療事業化に関わる様々な企業の方と話をする機会がありました。

FIRM、パートナリングやベンチャー設立支援などを強化
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/01/27/02212/

 その中で思ったのは、再生医療の価格の問題について、事業化に取り組んでいる当事者の方々がどのように考えているのかということです。

 2014年11月に医薬品医療機器等法(薬機法)と再生医療等安全性確保法(再生医療新法)が施行されて以来、再生医療の産業化の進展が大いに期待されましたが、薬機法に基づいて承認された製品は今のところ、テルモの「ハートシート」とJCRファーマの「テムセルHS注」の2品目だけです。

 この両製品はいずれも標準的な治療に要する保険償還価格は1300万円を超えますが、それでも利益を出すのは難しいようです。細胞培養の原材料費も高い上、品質確保のために様々な検査などを実施しなければならず、加えて対象となる患者数も限られます。「再生医療製品はコストがかかるということを理解してもらう必要がある」とFIRMの関係者は協調していました。

 ただし、そう強調することによって、再生医療技術そのものが、少ない患者を対象にした、高価格の医療技術であるというイメージを広めてしまっていないでしょうか。医療費抑制に社会全体の関心が向かい、「高価格」な医薬品や医療技術が批判の的になっているような状況下で、「コストがかかる」と訴えることが賢明だとは思いません。むしろ、再生医療に投資をしようという機運に水を差し、将来の可能性の芽を摘むことにならないかと危惧します。

 それで、再生医療は将来的にもコストがかかる医療であり続けると考えているのかどうかを、事業化に取り組んでいる方に聞いてみたいと思ったわけです。高コストであり続けるのであれば、恐らく希少性が高く、重篤な疾患しか対象にはならないでしょう。しかし、普及に伴って原材料費が低下し、自動化技術の登場によって人件費が減り、経験が蓄積させることによって検査などを簡素化して大幅なコストダウンができるのであれば、軽い外傷や虫歯など、幅広い疾患を対象にできる可能性も出てきます(もちろん有効性を検証する必要はありますが)。

 再生医療は、黎明期の現段階では価格も高く、まれで重篤な疾患を対象にした医療として開発されているものの、将来的には国民に身近な医療として提供できる可能性があるというシナリオを示してこそ、再生医療への期待感が高まり、国を挙げて推進していこうという機運につながるのではないでしょうか。そして、大幅なコストダウンのためには、どういう技術を開発していく必要があるかというロードマップを示し、業界を挙げて目標達成に向けて取り組んでいく必要があるかもしれません。3月7日から始まる日本再生医療学会総会を前にして、再生医療に対する社会全体の期待を一段と高める工夫があってもいいのではないかと考えた次第です。

            日経バイオテク編集長 橋本宗明

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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