【日経バイオテクONLINE Vol.2616】

今後日本でもブタとヒトのキメラ胚をブタの子宮に移植することが可能に?

(2017.02.08 08:00)
高橋厚妃

 皆様おはようございます。日経バイオテクの高橋厚妃です。2017年1月26日、米Salk Instituteの研究者が、ブタの胚盤胞にヒトiPS細胞を注入し、ブタの子宮に移植してヒトとブタのキメラ胚の作製に成功した成果をCell誌に発表しました。ブタの体内でヒトiPS細胞由来臓器が作製できる可能性を示したものです。

Salk研究所など、ヒトiPS細胞をブタの胚盤胞に注入、子宮に移植してキメラ胚を作製
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/01/30/02221/

 日本でも、移植する臓器不足を解決するため、動物の体内で臓器を作製しようとする研究が進んでいます。動物の体内で臓器を作製するには、(1)動物の胚にヒトiPS細胞やES細胞など多能性幹細胞を注入してキメラ胚を作製し、動物の子宮内で臓器を発生させる方法、(2)子宮から取り出した動物の胎仔に幹細胞などを注入して臓器を発生させる方法――などが考えられています。動物の胚に多能性幹細胞を注入しキメラ胚を作製する研究は、日本では東京大学医科学研究所付属幹細胞治療研究センター幹細胞治療分野の中内啓光教授の研究グループが手掛けています。中内教授と山口智之特任准教授らの研究グループは、膵臓を欠損させたラットの体内にマウスES細胞とiPS細胞由来の膵臓を作製して膵島細胞を糖尿病マウスに移植し、1年以上血糖値を維持することに成功した成果を2017年1月25日に、Nature誌オンライン版に発表しました。

東大医科研、ラット体内で作製したマウス膵島でマウスの糖尿病を治療
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/01/27/02213/

 ただし現在の日本は、「特定胚の取扱いに関する指針」によって、動物の胚にヒト多能性幹細胞などを注入して作製した動物性集合胚の研究が限定されている状況です。例えば、作製した動物性集合胚は動物の子宮に移植できなかったり、また、子宮に移植せずとも、作製してから14日間の培養を超えた動物性集合胚は取り扱うことができません。このような状況下では、Salk InstituteがCell誌に発表したような、ヒト多能性幹細胞を利用してキメラ胚を作製する研究は、日本では現状実施できないということです。東京大の中内教授は、そのような状況を嫌って現在、米Stanford Universityに拠点を移しつつあります。日本でも、基礎的な成果が積み重なってきているのに、ブタとヒト多能性幹細胞を用いた研究は、米国が一歩先をいってしまったという印象を受けました。

 しかし現在、指針の策定当初より科学が進展していることを踏まえ、内閣府から指示を受けた文部科学省が、「特定胚等研究専門委員会」を設置。特定胚の取扱いに関する指針の改正も視野に入れながら議論を行っています。具体的には、(1)動物の子宮への動物性集合胚の移植、(2)動物性集合胚の培養14日以降の取り扱い、(3)臓器作製以外の研究目的の拡大――について検討している最中です。

 日本の研究者が研究を断念したり、次々に海外に流出するような状況にならないためにも、理解が十分深まった上で指針が改正され、日本で研究が実施できる環境になることを願っています。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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