【日経バイオテクONLINE Vol.2613】

CiRAのiPS細胞株供給停止騒動で感じた「餅は餅屋」

(2017.02.03 08:00)
久保田文

 おはようございます。日経バイオテク副編集長の久保田です。昨晩以来、理化学研究所(理研)多細胞システム形成研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクトの他家iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞の臨床研究の第1種再生医療等提供計画が、厚生労働省の厚生科学審議会再生医療等評価部会で再生医療等提供基準に適合していると認められました。

厚労省、他家iPS細胞由来RPE細胞の臨床研究で提供基準の適合を確認
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/02/01/02239/

 今回の臨床研究は自家ではなく他家の再生医療であり、研究者にとっては科学的に、企業などからすれば新たな事業シーズとして、大きな一歩であることに間違いはありません。ただ、気になるのは、その足元が盤石ではない点です。

 2017年1月、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は、CiRAが製造し、複数の研究機関に提供済みの臍帯血由来iPS細胞4株の製造過程で、本来使用すべき試薬とは異なる試薬を用いた可能性が否定できないとして、4株の提供を停止し、製造管理体制を強化すると発表しました。該当する4株については、そもそも製造に異なる試薬が使われていない可能性もあり、また、これまでに臨床で使用されたわけでもないので、今回のことは大した問題ではないという向きもあります。

CiRA、臍帯血由来iPS細胞の製造で試薬を取り違えた可能性
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/01/24/02184/

 確かに、最悪の事態が起きたわけではありません。ただ今回のことで、CiRAの試薬の管理、記録の徹底などに不備があったことも明らかになり、細胞とはいえ、大学(アカデミア)がモノの製造を行う限界が露呈したとも言えるでしょう。アカデミアは、アカデミアがすべきことをし、企業は企業がすべきことをする。やはり、「餅は餅屋」ではないでしょうか。

 今回の一件が1年後に起きていたら、文字通り謝罪だけでは済まない事態になっていたかもしれません。というのも、今回問題になった臍帯血由来iPS細胞株を使って、ある国立大学の研究者が再生医療の事業化を計画していたからです。現時点で、その研究者は、臨床研究を計画している段階で、今回の一件では臨床研究の開始が遅れるだけ(だけというのもおかしいですが)で済みました。既にベンチャー企業も設立していましたが、まだベンチャーキャピタルや製薬企業などから出資を募っているところで、事業は動き出してはいませんでした。

 しかしもし、そのベンチャー企業が資金調達を終え、事業活動を活発化させていたら、または、臨床開発に向けて細胞株を使った前臨床試験を進めていたら、今回の一件はその企業の経営の足元を揺るがす事態に発展したかもしれません。業界関係者からは、「時と場合によっては、訴訟ものだった」との声も聞かれています。こうした、想定外のリスクに、果たしてアカデミアであるCiRAは耐えられるでしょうか。皮肉なことですが、このタイミングでこうした課題が明らかになったことは、業界にとっても不幸中の幸いでした。

 急速に研究が進められた結果、iPS細胞は、早くも商業化に向け一歩足を踏み出した段階にまで到達しました。だからこそ、今一度、一体、誰であれば、正確かつ安定的かつ持続的にiPS細胞を製造、供給できるのかについて、考える必要がありそうです。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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