皆様、おはようございます。日経バイオテクの高橋厚妃です。皆さんにとって2016年はどのような1年だったでしょうか? 2017年はどのような1年にしたいですか? 日経バイオテクは、業界の識者たちによる2016年の振り返りや2017年の抱負を、2017年1月1日から掲載します。1日は、主に行政や投資家、アナリスト関係者、2日は製薬、食品、化学、ベンチャー企業、3日はアカデミアの方です。フリーアクセスですので、ぜひ多くの方にご覧いただきたいと思います。ちなみに、日経バイオテク編集部の「記者の目」は、2017年1月4日に掲載する予定です。

 先日、日本電気(NEC)が設立した、癌ペプチドワクチンを開発するサイトリミック(東京・品川、土肥俊社長)の記者会見に参加してきました。
NEC、癌ペプチドワクチンを開発するベンチャー企業を設立
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/16/12/19/02067/
 そこで感じた古さと新しさについて書きたいと思います。

 古さ、というより懐かしさ、という表現の方が近いかもしれません。「NECが先進AI技術を活用した創薬事業に参入しました」というので、少し緊張しながら会見に参加したのですが、蓋を開けてみると、NECがヒト白血球抗原(HLA)に結合する癌抗原ペプチドを探索できる能動学習のアルゴリズムを開発し創薬事業に参入した、ということでした。能動学習は、インプットする訓練データをアルゴリズムで分析して選ばせることで、学習効率を高めて予測する方法です。最近の各種報道では、「機械学習」、「能動学習」、「深層学習」などの言葉はあまり利用されず、それらを包括する「AI」に置き換えられていることが少なくありません。創薬研究では、蛋白質同士の結合予測シミュレーションなど、今の表現でいうAIの活用が昔から試されてきました。アルゴリズムを作製し、ここまで来るのにNECは大変なご苦労をされたと想像しますが、根幹は以前からある概念の能動学習であることが分かってイメージが湧き、緊張から一転安心しました。

 癌抗原由来のペプチドは、樹状細胞表面に発現しているHLA上に提示され、それによってリンパ球が活性化します。しかし同じ癌抗原由来のペプチドでも、HLAの型が異なると提示されない場合があるのです。そこでNECは、多くのHLA型に結合して提示できる抗原由来ペプチドを探索しようと考えました。各HLA型との結合の有無が既に分かっているペプチドのアミノ酸配列と、その結合結果をアルゴリズムにインプットし、予測のばらつきを抽出するなどして分析。その後、結合の有無が分からないペプチドの結合予測を実施しました。

 新しさは何かというと、AIを活用した創薬の成功が評価される段階に入ったということです。能動学習で探索された癌ワクチンは、既に山口大学で臨床研究が行われています。NECが設立したサイトリミックは、非臨床試験の追加試験や製剤の安定化の検討を行い、2年後にも治験を開始する見込みです。これで実用化まで漕ぎ着けられたら、創薬現場のAIに対する評価が変わるかもしれません。実験を行っている現場は、機械のアルゴリズムが導き出した予測結果をあまり信用できないという心理になりがちです。アルゴリズムで探索された開発品の実用化が進めば、創薬の研究にもっとAIが投入されるかもしれません。昔から実施されてきた創薬の研究分野だけれど、新しさを感じた記者会見でした。

 2016年も大変お世話になりました。2017年もどうぞよろしくお願い致します。