新聞やテレビでも大きく取り上げられたので、読者の皆様はよくご存じでしょうが、厚生労働省が2016年11月16日に開催した中央社会保険医療協議会(中医協)で、抗癌剤で抗PD1抗体の「オプジーボ」(ニボルマブ)について、薬価を緊急に50%引き下げることが了承されました。

厚労省中医協、薬価改定待たずオプジーボの薬価50%引き下げを了承
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/16/11/16/01890/

 これが決まる過程ではすったもんだがありました。

 オプジーボは、2014年7月、根治切除不能な悪性黒色腫を効能・効果として、世界で初めて日本で承認され、2014年9月に発売されました。その際、投与対象患者が470人と少ないことから、原価算定方式で100mgで約73万円と高い薬価が付いたのです。ところが、2015年12月に切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌への適応拡大が承認されると、その患者数の多さから「オプジーボが国を滅ぼす」といった声が挙がって、高額薬剤問題が浮上しました。

 そこで厚労省は、一定以上の売上高となった薬剤を対象に薬価を切り下げる市場拡大再算定の仕組みを適用し、オプジーボの薬価を切り下げるための検討を開始しました。最初は、「年間販売額が1000億円から1500億円、かつ当初予想の1.5倍以上」の薬剤の薬価は「25%引き下げる」という特例拡大(巨額)再算定ルールを適用して、2018年4月の定期的な薬価改定の前に緊急で25%下げる方向で調整していたのです。

 ところが、2016年10月14日に開かれた政府の経済財政諮問会議(議長:安倍晋三首相)で、財政圧迫の懸念があるとして、一部の民間議員からオプジーボの価格を50%以上引き下げるべきだとの意見が出されると、薬価下げに官邸が乗り出すなど政治問題化しました。2016年11月に入ってからは、一般紙が「政府が50%引き下げる方向で調整している」と報道したのですが、その裏には官邸の意向(リーク)もあったと聞きます。

 「50%以上下げよ」という意見の背景には、海外でのオプジーボの薬価が、米国で約30万円、英国で約14万円と日本のそれを大きく下回っていることがあります。ですが、現行の特例拡大再算定の仕組みで薬価を50%引き下げるには、「年間販売額1500億円超、かつ予想販売額の1.3倍以上」を満たすことが必要があります。ところが、2016年11月7日の2017年3月期第二四半期の決算会見で、小野薬品はオプジーボの通期の売上高を出荷ベースで1260億円と予想していて、1500億円には届かない見込みです。そこで厚労省は、鉛筆をなめ、オプジーボの年間販売額は1500億円超と説明した上で薬価を50%引き下げる方針を打ち出しました。さらに厚労省は、適応拡大に応じて薬価を見直すなど薬価制度の改革にも着手するということです。

 もっとも、オプジーボの薬価を25%でなく50%に引き下げることによる医療費の抑制効果は300億円弱程度に過ぎません。製薬業界の関係者からは、「医療費抑制効果を考えたら、75歳以上の高齢者の保険料軽減の特例廃止などの方がはるかにインパクトが大きい」と指摘する声も聞こえます。小野薬品は、厚労省の方針に納得しているといことですが、狙いやすいところが標的にされたと見られても仕方ない状況です。

 加えて、こうした“超法規的な薬価下げ”が及ぼす影響は計り知れないと思います。ある外資系製薬企業の関係者は、「そもそも国内では医薬品の価値に見合った薬価が付けられる仕組みがない。また、今回のように薬価を予見できないと日本での事業化は難しくなる」とこぼしていますた。ドラッグラグ問題が表面化してから、治験環境や迅速な審査体制が整えられたものの、高額薬剤問題でドラッグラグ問題が再燃しないとも限りません。若干の医療費抑制効果は得られたけれど、革新的な治療薬は日本で開発されなくなった――。こんな事態が起きないことを願うばかりです。