皆様、おはようございます。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 まずはセミナーの告知です。

 昨年に続き、今年もゲノム編集のセミナーを開催します。この1年間で、ゲノム編集の実用化の動きは相当進んでいます。企業での研究開発への利用も本格化しています。加えて、ゲノム編集技術自体も急速に進化しています。今回のセミナーは、その“速さ”を実感していただけるような内容になっています。ぜひ、ご参加ください。

◆◆加速するゲノム編集の医療応用◆◆
開催:2016年11月9日(水) 13:00~17:30(開場12:30)予定
会場:コクヨホール(東京・品川)

■詳しいプログラム内容はこちらから■
http://nkbp.jp/2dbLNuG

 また、12月1日には恒例となっている日本PGxデータサイエンスコンソーシアムの共催セミナーを開催します。今年のテーマはゲノム医療。癌と希少疾患の分野で始まったゲノム医療の実際についてをアカデミアの研究者に講演いただくとともに、このゲノム医療をどうやって創薬に結び付けるかについて製薬企業の研究リーダー、倫理問題に詳しい専門家を交えて議論していきます。特に希少疾患向けの医薬品メーカーとしてグローバルに大きな存在感のあるアレクシオンファーマの和田道彦・ヴァイスプレジデント兼研究開発本部長と、中堅ながらユニークな創薬戦略を取る小野薬品工業の中出進・トランスレーショナルメディシンセンターセンター長には、ゲノム医療時代の製薬企業の創薬戦略について講演いただく予定で、将来の創薬の在り方を展望するような議論が聞けるのではないかと期待しています。こちらもぜひ、ご参加ください。

◆「ゲノム医療」が変える、製薬企業のR&D◆
開催:2016年12月1日(木) 12:30~17:30 (開場12:00)予定
会場:JA共済ビル カンファレンスホール(東京・永田町)

■詳しいプログラム内容はこちらから■
http://nkbp.jp/2dHxi4b

 さて、既に半月以上前の話題になってしまいますが、BioJapan2016のセミナーや講演などを聞く中で、興味深く感じたのは「ものづくり系バイオ」の話題です。神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科の近藤昭彦教授が紹介されていた海外で生じているBioeconomyの動きを大変興味深く思いました。次世代シーケンサーの登場により生命が長年かけて蓄積してきたゲノム情報に非常に安価にアクセスすることが可能になり、その宝の山から掘り起こしたデータの分析にAI(人工知能)を活用できるようになり、しかもCRISPR/Cas9などのゲノム編集技術を利用して自由にゲノムを取り扱えるようになった──。この技術革新を利用することで、代謝経路を設計し、実際に組換え体を作って生産し、ハイスループットで評価して経路を修正していくというサイクルが加速するというわけです。微生物などを用いた化学品などの生産が革新的な進歩を遂げるのではないかと予感させられました。

 実際、ここ1、2年のうちに日本ではものづくりバイオの技術開発が大きく進展しています。昆虫、特に組換えカイコを使った蛋白質生産は既に試薬や診断薬、化粧品では実用化レベルに達し、医薬品原料の生産もいよいよ視野に入ってきました。

IBL、組換えカイコによる蛋白質製造のパイロットプラントが稼働へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/16/07/26/01223/
 組換えカイコを使った有用物質の生産では、農林水産省が2017年度から「蚕業革命による新産業創出プロジェクト」を開始する予定で概算要求をしています。このプロジェクトは2021年までの5年間で25億円を投じ、1.カイコの繭に蛋白質を高発現させる技術の開発、2.発現蛋白質にヒト型糖鎖を付加する技術の開発、3.カビ臭等の特定の化学物質を高感度かつ迅速に検知するバイオセンサーとして利用できるカイコの作製、4.遺伝子組換えカイコを省力かつ安定的に飼育するためのスマート養蚕システムの開発──を行う計画です。研究のアウトカムは、遺伝子組換えカイコを利用した医薬品等の供給量(需要量)が高まり、原料繭の生産量が5年後(平成34年)に250トン(目標)に達すると見込むとされています。

 一方、組換え植物による物質生産も技術の進展が大いに注目されます。産業技術総合研究所北海道センターと北里第一三共ワクチンなどが共同開発し、ホクサン(北海道北広島市、氏家薫社長)が農林水産省に対し申請していた遺伝子組換えイチゴを用いた動物用医薬品「インターベリーα」が2013年10月に承認されていますが、その後、産総研北海道センターなどは密閉型植物工場を用いた新しい物質生産の技術開発に挑戦してきました。2011年から5年間で5億円を投じた経済産業省のプロジェクト「密閉型植物工場を活用した遺伝子組換え植物ものづくり実証研究開発」がそれで、有用物質生産の基盤的な技術として、植物による一過性発現技術の開発に取り組んできました。

 従来の組換え技術による有用物質の生産は、目的遺伝子を導入して形質転換した組換え体を作製して行うというもので、どうしても組換え体の作製に時間がかかります。これに対してウイルスベクターなどを用いて細胞内に目的遺伝子を導入して蛋白質を発現させる一過性発現技術は、短期間で目的物質を生産でき、かつ生産量を拡大するのも比較的容易なことから、特にワクチン抗原の生産に適しているとされ、世界各国で研究開発が進められています。経産省のプロジェクトで産総研北海道センターなどが取り組んだのはこの一過性発現技術をより高効率で行うための技術開発で、パンデミックインフルエンザなどの流行に対して極めて有力な武器になる可能性があります。

 田辺三菱製薬が2013年に傘下に収めたカナダMedicago社も同様の植物による一過性発現技術を有し、米国政府やカナダ政府から国防的な観点で助成金などを受けています。日本でも植物による一過性発現技術が確立されれば心強いわけで、今後の技術開発の進捗が大いに期待されます。

 さらに、2016年度からは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、「植物等の生物を用いた高機能品産技術開発プロジェクト(スマートセルプロジェクト)」を開始しました。こちらは蛋白質よりもむしろ植物や微生物を用いた化学品、化粧品、プラスチックなどの工業製品の原材料生産に軸足を置いたプロジェクトのようで、冒頭で触れた近藤教授が紹介したBioeconomyなどの取り組みに通じるものと言えそうです。

 NEDOは11月14日にこのプロジェクトのキックオフシンポジウムを開催するそうなので、興味がある方はぜひご参加ください。

「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発プロジェクト キックオフシンポジウム」の開催
http://www.nedo.go.jp/events/EF_100062.html

 いずれにせよ、食糧問題や環境問題が深刻化するにつれて、ものづくりバイオ技術に対する関心はますます高まっていくに違いありません。もちろん日経バイオテクはこの分野の研究開発の進展も、しっかりとウオッチしていきたいと考えています。

 本日はこの辺りで失礼します。