医療、医学の進歩は新しい治療法の有効性を既存の治療法と比較する臨床試験を行って検証することが王道です。新しい治療が全ての点において既存の治療法を上回ってくれれば全く問題なく、その時点で最適な治療法を意味する標準治療が更新されることになります。しかし、必ずしもすんなりとそうならないケースもあります。

 先日の欧州腫瘍学会(ESMO)では非小細胞肺癌(NSCLC)の第1世代の分子標的治療薬であるゲフィチニブと第2世代のアファチニブの比較試験(フェーズIIb、LUX-Lung7)の結果が報告されました。これは、初めて企画されたEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)同士のhead-to-headの比較試験です。既に昨年のESMOでは奏効率、無増悪生存期間(PFS)でアファチニブがゲフィチニブを凌ぐ結果が報告されており、今年公表されることが予告されていた全生存期間(OS)でもアファチニブが勝てばアファチニブが第一選択薬の座に就く可能性が高くなります。

 結果はゲフィチニブ24.5カ月に対してアファチニブは27.9カ月(いずれも中央値)。数字の上ではアファチニブに軍配が挙がったように見えますが、統計学的な差はありませんでした。この結果をどのように解釈すべきでしょうか。

 ある専門家は、この結果について全く異なった2つの解釈が可能と指摘します。
「奏効率でもPFSでもアファチニブがゲフィチニブを凌いだ。EGFR遺伝子上のエクソン19、エクソン21の変異でもアファチニブのPFSは長かった」。この事実を考慮するとアファチニブがEGFR遺伝子変異のあるNSCLCに対しては第一選択と考えてもよいようです。
 しかし、「PFSは勝ったといっても中央値では11.0カ月と10.9カ月でほとんど同じ。皮膚障害などの副作用はアファチニブの方が強そうだ。エクソン19と21の変異に対するPFSもアファチニブがよさそうではあるが統計学的有意差は無い」。このように考えていくと、この試験の結果をもってアファチニブをEGFR遺伝子変異のあるNSCLCの第一選択としてよいとするには抵抗があります。
 
 どのような情報を重視し、推論の決め手とするかで答えが全く違ってくるということです。この試験の結果をどう解釈するかについてもう少し多くの臨床医に感想を聞きたいなと思っています。