免疫チェックポイント阻害薬を使用する際のバイオマーカー探しが世界的に展開され、リガンド分子やインターフェロンγの遺伝子署名などが候補に挙がっています。ただ、陽性であっても効き目が悪かったり、陰性であっても著効したりする例があり、もやもやした部分が残ります。

 一方で、生命科学にもビッグデータの概念が導入されています。今後はmRNAや蛋白質、代謝物などの変化を統合的に捉えていく方向の研究が加速していくと予想されています。そうなれば、生体の法則性を統括的に捉えることも可能になるはずです。

 今までのバイオマーカーは健康な状態と病気の状態の違い、薬が奏効する状態と奏効しない状態の違いに着目して探索されてきました。しかし、生体を状態と捉えるとそれはダイナミックに変化しています。東京大学生産技術研究所の合原一幸教授らが4年前に発表した「動的ネットワークバイオマーカー」は生体の動的な側面に光を当てる理論です。

 生体には、健康という安定した状態と病気というこれもまた安定した状態があります。そして2つの状態の間には遷移の状態が存在します。プレシジョンメディシンの1つの到達点はこの遷移の状態に介入することにあるといえるでしょう。このタイミングでは病気の状態に移行しそうになった生体の状態を比較的軽微な介入で健康な状態に戻すことができます。
 この健康観、病気観には漢方医学が2000年前から唱えてきた「未病」に通じるものがあります。合原教授が報告した動的ネットワークバイオマーカーはこの状態を生体から得られる様々なビッグデータから、“動的状態遷移過程”を識別する方法です(具体的にはそのためのアルゴリズムです)。

 単一のバイオマーカーで全てを判断することの限界が見えてきました。生体の多層的ビッグデータを駆使した新しいバイオマーカー探索がもやもや感を一掃してくれる日を楽しみにしています。