おはようございます。日経バイオテク編集長の橋本です。11月9日の午後に東京・品川で、ゲノム編集の医療応用をテーマとするセミナーを開催します。ぜひご参加ください。

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 さて、知人に薦められて、河出書房新社の『サピエンス全史』という本を読んだのですが、久々に大興奮させられたというか、大いに考えさせられました。英Oxford大学でPh.Dを取得し、現在エルサレムのHebrew Universityで歴史学を教えているYuval Noah Harariというイスラエルの歴史学者が著した書籍で、英語のタイトルは「Sapiens: A Brief History of Humankind」といい、2014年に出版されて世界的ベストセラーになったそうです。

 話は、およそ250万年前にアウストラロピテクスが登場した辺りから始まって、100万年ぐらい前には石器を使うようになったものの捕食者を恐れて暮らしていた人類の中に、1つの種としてホモ・サピエンスが登場し、他の人類を絶滅に追いやって、食物連鎖の頂点にのし上がり、その後、農業革命、貨幣の発明、科学革命を経て、現在に至る道のりが、数多くの科学的な知見と考察に基づいて描かれています。とりわけ感心したのは、15万年から20万年前にアフリカ大陸の一隅に誕生し、その後しばらくの間(といっても万年単位ですが)細々と暮らしていたホモ・サピエンスが、体格に勝るネアンデルタール人をはじめとする他の人類を凌駕してその勢力を拡大することが、なぜ、可能だったのかに関する著者の考察です。ネタばれになるとつまらないのでここには書きませんが、皆様は何だと思われますか? ちなみにネアンデルタール人はサピエンスよりも筋肉は発達し、脳の容量は大きく、道具と火を使い、病人や虚弱な仲間の面倒を見るような社会性を持ち合わせていたそうです。また、音声で情報を伝える能力は、人類以外にも色々な動物が持ち合わせています。この「なぜ」に対する答えが非常に意外であり、かつ納得性のあるものだっただけに、思わず唸ってしまいました。

 いずれにせよ、我々が本来は動物の1つの種に過ぎないということを、この書籍を通じて再認識させられました。ただし、他の生物は環境の変化に対して長い時間を掛けて適応しながら種を存続させてきたのに対して、サピエンスはその技術によって環境を自分たちの都合のいいように作り変え、他の生物も自分たちの都合のいいように作り変えることで、短期間の間にこれだけ急速に数を増やし、種を繁栄させてきました。そうやって生物種としては大成功したものの、「幸せになったのだろうか」と著者は問い掛けます。「個々のサピエンスの幸福は必ずしも増進しなかったし、他の動物たちにはたいてい甚大な災禍を招いてきた」と。

 誤解を招くといけないので念のために言っておきますが、著者は反文明主義や反科学主義を唱えているわけではありません。ただ、太古においても現在も、サピエンスが数多くの動植物種を絶滅に追い込んできたのは確かでしょう(ネアンデルタール人や他の人類を含めて)。ただし、そんなエゴイスティックなやり方を一体いつまで続けることができるのでしょうか。環境問題や食糧問題を挙げるまでもなく、これまでのやり方が限界を迎えつつあるのは明らかでしょう。書籍は最後の方は少しSFチックにもなってきますが、今後、人類はどういう方向に向かうのか、向かうべきなのかが考察されていて大いに考えさせられます。

 とにかく、何万年という尺度の時間軸で歴史を振り返ると、これまでの固定観念が覆され、視野が大きく広がることに気付かされます。秋の夜長を過ごすのに、ぜひお薦めの1冊です。

 本日はこの辺りで失礼します。
                日経バイオテク 橋本宗明