膵臓癌は癌の中でも非常にたちが悪い癌です。早期発見が難しく、発見時には手術もできず手遅れというケースが珍しくありません。さらに幸運にも手術ができても再発頻度が高いというやっかいな癌です。ほかの癌の治療成績がここ10年、右肩上がりに上昇しているにも関わらず、1つだけまったく進歩の様子が見られない癌が膵臓癌です。
 膵臓癌の治療医が集まる日本膵臓学会の年次総会でも公然と「暗黒の癌」と表現されています。ある高名な先生は膵臓癌をロシアンルーレットに例えて警鐘を鳴らしていました。

 膵臓癌の治療成績が上がらない最大の問題は早期発見の難しさです。膵臓は薄い臓器で、癌が発生すると周囲の臓器に転移しやすいことも、たちの悪さに拍車をかける一因です。

 しかし暗い話ばかりではありません。近年、膵臓癌の早期発見に向けて、多くの画期的な試みがなされています。筆頭はわれらが国立がん研究センターと東レが開発中のmicroRNA検査。臨床試験の申請が同センターのIRBに上がっており、近く臨床研究が始まると思われます。スウエーデンのベンチャー企業Immunovia社が近くスウェーデン大使館で膵臓癌の早期診断キットを発表するという情報もあります。国内の大学からも近く血液検査に有望な技術の発表が予定されています。また味の素が血液中のアミノ酸のパターンから膵臓癌を含めた種々の癌を検出するアミノインデックスを開発しています。こうした検査技術の開発が活発化していることは膵臓癌患者にとっては間違いなく僥倖です。
問題は膵臓癌の早期発見が可能かということです。
 膵臓癌の検査にはCA19-9がありますが、早期発見にはまったく役にたちません。
 
 膵臓癌はやっかいな癌ですが、変異遺伝子はKRAS 癌遺伝子活性化、癌抑制遺伝子
(CDKN2A, TP53, SMAD4, BRCA2)の不活化など突出して多彩な変異があるわけではなく、むしろ地味な方です。この遺伝子変異を採血試料から得ることができれば、早期発見も夢ではないのかもしれません。

 有望な技術が出てくれば、膵臓癌の治療成績も上がると期待されます。一方で、こうした検査技術が同時多発的に登場してくると、何が標準となるべきかが問題になります。米国癌研究所(NCI)は標準試料として膵臓癌のステージ別試料を研究機関や企業に提供しています。各研究者は、自分が検査した結果をNCIに報告します。NCIはどの研究者のどの技術が最も有用であるかを評価することができます。

 日本でも各研究室が独自の発想で膵癌早期発見技術の開発に取り組んでいます。こうした各技術を一堂に集め、比較し、評価する仕組みが日本であっても良いのではないかと思います。国立がん研究センターかどこかの有力大学が手を挙げると面白いのではないかと思っています。世界から技術があつまればしめたもの。東京オリンピック開催を記念して、膵臓癌早期発見マーカーオリンピックなんてどうでしょうか。