こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 昨日、英国大使館で開始された英国ゲノミクス・プレシジョンメディシンセミナーに参加させていただきました。プレシジョンメディシンというと、Obama大統領が2015年初めにプレシジョンメディシンのイニシアチブを開始したことで知られていますが、英国でもGenomics Englandという政府系の組織で10万人のゲノム解読プロジェクトを進めており、それと連携してPrecision Medicine Catapultという組織で産官学共同による事業創出を進めています。日本でもバイオバンクやコホート研究の基盤整備が進められていますが、英国での取り組みのスケールとスピード感には圧倒されました。

 中でも印象深かったのは、Congenica社というベンチャー企業のプレゼンテーションです。遺伝性の希少疾患の診断に焦点を当てたこの会社は、Sanger Instituteが開発した1万4000の家系、4万人以上のシーケンシングデータに基づく希少疾患の診断プラットフォームを利用して、遺伝子診断サービスを提供しています。従来は、希少疾患の診断が付くまでには7.3人の医師が4.8年掛かっていたところが、Congenica社のサービスを利用すると1人の医師が5日間で診断できるようになると説明していました。Sanger Instituteでの研究では、これまで診断が付かなかった1000人以上に対して、約3割に診断を付けることができ、12の新規疾患関連遺伝子を見いだしたとのことです。シーケンシングのコストは別ですが、解析したデータに基づいて診断リポートを出すまでの料金は、聞き間違えでなければ1サンプル当たり80ポンド(約1万3000円!)というから驚きです。

 実は日本でも、日本医療研究開発機構(AMED)が同様のプロジェクトを行っています。未診断疾患イニシアチブ(Initiative on rare and Undiagnosed Diseases:IRUD)というのがそのプロジェクトで、先日開催された日本オミックス医療学会で、プロジェクトの分担研究者である慶應義塾大学の小崎健次郎教授が講演された内容によると、プロジェクトを開始して以来、診断が付かなかった患者の150家系について既にエクソーム解析を実施し、約3割で診断を付けることができ、新規疾患関連遺伝子を2つ見いだしたとのことでした。

AMED、希少疾患などの患者登録ネットワークを構築へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150722/186419/

 日本と英国で規模に違いはありますが、どちらにしてもこれまで症状を訴えても原因不明とされて、あちこちの医療機関を転々として悩み続けていた患者の3割に診断を付けることができるというのは大変素晴らしいことです。それによって治療法にアクセスできるようになればいいですし、場合によってはまだ治療法がない疾患であることが判明するかもしれませんが、ターゲットが明確になれば治療法開発の可能性はぐっと高まるはずです。これこそまさにゲノム医療、プレシジョンメディシンの成果と感銘しました。

 話題は変わりますが、来週の26日土曜から横浜で日本薬学会第136年会が始まります。年会自体は、基礎や創薬研究の話題だけでなく、薬剤師向けの話題も増やして幅広い議論が行われるということですが、一方で少し尖がった創薬の話題を集めた国際創薬シンポジウム(International Symposium for Medicinal Sciences)が28日月曜に開催されます。C型肝炎治療薬ソバルディ(Sofosbuvir)の開発者であるArbutus Biopharma社のMichael J. Sofia氏や、蛋白-蛋白相互作用の低分子医薬の開発で知られるVanderbilt Center for Neuroscience Drug DiscoveryのCraig W. Lindsley氏らの講演が聞ける他、製薬企業やベンチャー、アジアの企業などのポスタープレゼンテーションも用意されているとのことで、かなり面白そうです。興味がある方はぜひのぞいてみてください。

http://nenkai.pharm.or.jp/136/web/en/

 本日はこの辺りで失礼します。

                     日経バイオテク 橋本宗明