公的研究費による研究開発の情報公開はどこまですべきか?【日経バイオテクONLINE Vol.2405】

(2016.03.04 18:00)
久保田文

 こんにちは。三週に一度、メルマガを担当している副編集長の久保田です。昨日、都内で開かれていた日本医療研究開発機構(AMED)の「革新的医療技術創出拠点プロジェクト」の2015年度成果報告会を取材に行きました。

 同プロジェクトは、これまで文部科学省が担っていた「橋渡し研究加速ネットワークプログラム事業」と、厚生労働省が推進していた「臨床研究品質確保体制整備事業」や「世界に先駆けた革新的新薬・医療機器創出のための臨床試験拠点整備事業」、「未承認医薬品等臨床研究安全性確保支援事業」などの日本から革新的医薬品・医療機器の開発を目指す関連事業を一体化。AMEDの臨床研究・治験基盤事業部臨床研究課が主に運営しているものです。

 2日目の昨日は、数ある採択テーマのうち、癌、感染症・難病、脳と心、医療機器、再生医療の各分野から合計21シーズについて発表がありました。いずれも出口志向の研究ばかりで、発表では基礎研究の成果ばかりでなく、「GLPの安全性・毒性試験では…」「GMP製造は…」「医薬品医療機器総合機構との事前面談の結果…」など、文字通り開発の現状が、臨床医や研究者の口から次々報告されました。

 中には、ある治療法の医師主導治験で一部の症例への投与が終了して良好な効果が見られており、2016年中に承認申請を計画している、といった発表もありました。そこで、発表内容を記事にしようと、会場で研究者の先生に声をかけたところ、「治験の途中なので、記事にはしないで欲しい」との返答が返って来たのです。何人かの研究者の先生に声をかけましたが、似たような返事を複数の先生から頂戴しました。

 いずれも公的研究費によって実施されている医師主導治験であり、成果報告会という公の場で発表された内容です。加えて、私もこっそり忍び込んだわけではありません。取材申し込みの手続きを経て、報告会を取材しています。「治験の途中だから」「提携している企業に影響が出るから」といった理由もまったく分からなくはないのですが、かといって、深く納得できるという感じでもありません。

 実は最近、私たちは度々こういう経験をするようになってきました。背景には、公的研究費で様々なシーズを出口まで開発することが増えたことがあるのだと思います。今までは製薬企業やベンチャー企業の資金で開発が行われ、広報部などの担当者が情報の公開・非公開をコントロールできていたわけですが、研究者が実施した医師主導治験のデータを基に最後だけ企業が承認申請する場合などは、そうしたコントロールも効きません。そもそも企業が治験の途中で一部の症例における効果を明らかにすることはありませんでした。

 もっとも、研究費の確保が難しくなる中、研究者の先生が“成果”を前面に出さなければならない事情も分かります。国民の税金を使っている以上、医薬品や再生医療として実用化し、還元しなければといったプレッシャーもあるのかもしれません。昨日の成果報告会でも、そういう決まりになっているのか、最後のスライドは必ずと言っていいほど実用化までのロードマップで、「今年中に医師主導治験を開始します」「今年中に承認申請する予定です」といったかなり積極的な発言が多く聞かれました。仮にそれをそのまま報道すると、“飛ばし過ぎた”記事になる可能性もあるでしょう。

 公的研究費による研究開発について、研究者がどこまで公にし、それを私たちがどこまで報じるか――。医師主導治験のような公的研究費による研究開発の存在感が増す中で、その塩梅について、そろそろ考えた方が良さそうです。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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