最初に告知になりますが、今年も日経バイオ年鑑を発行いたしました。今年は開発中の医薬品のパイプライン情報を強化したほか、今年のバイオ分野の動きやトレンドがわかる特別リポートを強化し、今年話題となった注目企業のご担当者をインタビューした記事を新たに掲載しました。

 ご予約いただいた方にはこの場を借りて御礼申し上げます。また、日経バイオ年鑑にご興味をお持ちいただいた場合、是非とも以下のサイトをご覧いただき、ご検討いただければ幸いです。

https://bio.nikkeibp.co.jp/article/information/20151013/187919/

 最近、改めて微生物コリネバクテリウムの面白さに触れる機会がありました。

 1つは、本日記事を公開した、味の素のバイオ医薬品の生産受託サービスです。

味の素とAlthea社の組み合わせの妙、商業生産にこだわり受託サービス事業拡大目指す
アミノ酸生産菌がバイオ医薬でも活躍、ADCや結晶化技術も提供
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/092800003/121600235/

 詳しくは記事をご覧いただきたいのですが、長年、アミノ酸の生産に使われてきたコリネ菌にとても興味深い特徴があったため、バイオ医薬品の生産に活用していこうという味の素の取り組みでした。お話を聞くと、糖鎖が必要な蛋白質は別として、微生物で生産できる蛋白質の製造を目指すのであれば、かなり有望な発現系なのではないかと感じさせるものでした。ちなみに、同社は発現系だけでなく、米国のCMOを買収し、発現系の開発から無菌充填まで、バイオ医薬の製造に必要な全てのプロセスをサービスとして提供できる体制を整えています。

 もう1つは、地球環境産業技術研究機構(RITE)の乾将行氏らのグループの取り組みです。

RITE乾氏、「原油に頼らず糖から芳香族化合物を生産する系を実用化する」
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/092800003/111400062/

BioJapan2015、グリーンフェノール開発、住友ベークライトと共同で
バイオマス由来フェノールの製造プロセス開発中、2018年商用生産目指す
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20151015/187977/

 RITEでは、コリネ菌を用いてバイオマス由来エネルギーやプラスチックなどの生産に取り組んできましたが、最近は、これらのほかに、芳香族化合物の生産を目指して研究を進めています。住友ベークライトと共動でバイオマスを原料としてフェノールを生産する研究が進んでおり、グリーンフェノール開発という会社まで作って2018年には商用生産を目指すことを明らかにしています。

 乾氏にお話を聞くと、フェノールだけでなく、芳香環のベースとなるシキミ酸については非常に高効率で生産できるという実績をお持ちです。また、現在は化学合成で製造しており、製造コストが非常に高いことから用途が限定的になっている芳香族化合物は世にたくさんあり、そうした化合物のいくつかは同グループの生産系で生産できそうだ、という感触を得ているそうです。例えば、化粧品や香料に使われる成分は抽出したり、複雑なプロセスと精製を経て合成されていますが、どうしてもコストが高くなるそうです。しかし、安価になれば、その用途は爆発的な拡がりが期待できるそうで、現在、乾氏のもとには様々な企業が日参していると聞きます。

 なぜこうした芳香族化合物を狙うのか。もちろん市場性があるからなのですが、乾氏のグループの生産系は、物質生産の際にはコリネ菌は増殖していません。昔ながらの休止菌体培養と似ているのですが、同グループの特徴は、数十段階からなる反応系が休止菌体内で働くことです。そのため、複雑な化合物も高い収率で生合成できると言うことでした。

 最初の入り口は、アミノ酸と共通、その後、バイオ医薬とプラスチックやエタノールと分かれていったように見えて、医療用途、香料、化粧品などのヘルスケア分野に集約しているところも面白いと思う次第です。

 コリネ菌の特徴を伺うと、いいことずくめです。なぜコリネ菌はそこまでいいことばかりなのか、と聞くと、個人的な考えと前置きされましたが、興味深い回答が得られました。

 考えを集約してまとめてみると、バイオ医薬品の生産に最初に使われたのが大腸菌で、そのため大腸菌を最大限に改良してきた歴史がある。コリネ菌は全く違う微生物。大腸菌をいくら改良しても達成し得ない特徴をそもそも持っていたりする。もし最初に使われたのがコリネ菌だったら、また違った発現系が注目されるだろう。エタノールも同様だ。エタノールと言えば酵母。酵母を改良してエタノールの生産性を上げる取り組みが進んでいるが、酵母をいくら改良しても達成し得ない特徴がコリネ菌にはある、芳香族化合物も同様で、それ単体は高濃度になれば細胞に毒性があり、化学合成以外の方法は無理だろうという思い込みがある、ということと言えるようです。

 聞いてしまえば至極当たり前のことかもしれません。執着、固執、あるいは歴史や伝統や経緯を背景にしたこだわりに基づいて目の前にあるものを何とかしようと努力するのは、研究開発の王道です。しかし、ひょんなところから出てきた全く別のものが、どうしてもクリアできなかったハードルを易々とクリアするということでしょうか。うまく行っている事例を伺うので「取材バイアス」はあるでしょう。ただし、困難なとき、停滞感を感じているとき、全く新しいモダリティを入れてみると拓けてくる未来があるということであり、個人的にも視野を広げていなければ、と肝に銘じた次第です。

                         日経バイオテク 加藤勇治