日経バイオテク編集長の橋本宗明です。本日、本来は高橋厚妃記者が担当する番ですが、交代して私が書かせてもらいました。

 2015年12月2日に開催された厚生労働省の薬事・食品衛生審議会薬事分科会血液事業部会運営委員会で、化学及血清療法研究所における不法行為の実態を調べていた第三者委員会の調査報告書が公開されました。

化血研の第三者委員会、厚労省の委員会で報告書を提示
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/092800003/120400181/

 報告書は全体でA4版100ページを超える大作で、不法行為の実態やそこに至る経緯から、組織的背景、時代的背景まで、かなり踏み込んで書かれています。9月に委員会が設置されてから、短期間でこれだけのものをまとめた関係者の努力には大変頭が下がります。

 報告書を読み込んでいくと、違法行為に関わった当事者の立場や心境を多少は慮ることができますが、厚生労働省の許可を受けた医薬品メーカーにおいて、医薬品の品質に関する信頼性を保つためのルールであるGMP(医薬品の製造管理と品質管理の基準)を長期間にわたって破り続けてきたという点で、医薬品に対する国民の信頼を損ないかねない極めて悪質な事件と言わざるを得ません。

 第三者委員会が調査を行ったのは、今年5月に医薬品医療機器総合機構(PMDA)が化血研に対して実施した立入調査で、国内献血由来の血漿分画製剤の全製品が製造販売承認書と異なる製造方法で製造されていることが判明したからです。報道では、「40年以上前から不正製造」「利益優先の姿勢」といった見出しが躍りましたが、当時の承認書は現在ほど詳細な製造方法の記載を求めていなかったようで、40年前から行われてきたことが現在の承認書に照らせば不正であるものの、その時点で「不正」と指弾できるものだったかどうかはよく分かりません。また、承認書と異なる方法で製造したのも多くの場合は品質の改善を目的としており、正式な手続きによって発売が遅れる事態を避けたいという意図はあったとしても、少なくとも金銭的な利益を追求する目的があったようには読めません。さらに報告書では血漿分画製剤の安全性についても検証した上で、「人体に対して危険を及ぼすことを示す証拠は見当たらない」としていることにも触れておきたいと思います。

 ただ、それでも許されないのは90年代後半以降に、当局の査察によって異なる方法で製造していることが発覚するのを避けるため、実製造の製造記録とは別に、承認書に合致した虚偽の製造記録を作成してきたことです。「ルールや手順を文書で定め、行ったことは記録に残す」というのがGMP制度の根幹です。そのGMPの精神とも言えるものを、二重帳簿を付けるようなやり方で偽装していたというのは、制度を愚弄する行為だとしか思えません。さらに2005年以降、薬事法(現医薬品医療機器等法)の改正によって承認書に詳細な製造方法が記載されることになりましたが、その際に実製造法を記載しなかったために法律違反は決定的なものとなりました。

 報告書には、化血研において組織ぐるみでどのような隠ぺい工作が行われてきたのかが、人名は伏せながらもかなり赤裸々に書き込まれています。熊本市に本社を置き、ワクチンと血漿分画製剤を専門とする一般財団法人という、医薬品メーカーとしてはかなり特殊な存在であったにせよ、2000人近くの従業員が働き、年間500億円近くを売り上げる組織で、約20年にわたってこれだけの隠ぺいが続けられてきたという事実には驚愕を覚えました。報告書によると、組織ぐるみの隠ぺい工作は血漿分画部門で行われてきたことであって、ワクチンなどの他部門には知らされておらず、品質保証部門も欺かれる対象だったようです。血漿分画部門への配属は新入社員のみで、他部門から転入させることはなかったというのも、秘密漏えいを恐れてのことかもしれません。

 報告書ではこれまでに何度か、製造工程と承認書の不一致を解消するために、血漿分画部門内で検討がなされてきたことも記されています。「自分たちの代で終わりにしよう」と担当者らに呼び掛け、実態を調査し、分析した社員らの存在も記載されています。しかし経営陣はこうした社員から報告を受けても何ら対応することなく問題を放置し続け、PMDAの立入調査で問題が露呈するという事態を招きました。社内で問題を提起しながらも挫かれてきた人たちは、この報告書をどんな思いで読んだでしょうか。

 今回のGMP違反・偽装がなされた背景に、その独特の企業ガバナンスや企業文化、組織風土があったのは間違いありません。報告書からは、血漿分画部門出身で、社内に大きな発言力を持ったA前理事長の存在がかなり大きかったことも読み取れます。従って、化血研で起きたような異常事態は、どの製薬企業でも簡単に起こり得るようなことではないでしょう。

 ただ、だからといって特殊な企業で生じた特殊な事件だと言いきることはできません。特に、医薬品製造の外注化が広範に行われるようになり、医薬品の研究、開発、製造、販売のあらゆる分野で規模の小さなバイオベンチャーなどの存在感が高まっている中で、決して悪意はなくても独善的な経営者に率いられた組織が不正を働き、組織ぐるみでそれを隠ぺいしようとした時に、果たして不正を見抜くことはできるのでしょうか。もちろん、見抜くために行政側や事業者にかかる負担が過大になりすぎて、事業が存続できないような事態を招いては本末転倒であることも言及しておきたいと思います。

 報告書を受けて、塩崎恭久厚労大臣は立入調査を抜き打ちで実施するなどGMPに関する検査のやり方を見直す考えを表明しました。また、日本製薬工業協会の多田正世会長は、化血研に対し厳正に対処するとともに、改めて会員各社に法令順守の徹底を促す考えを示していますが、これらは当然の対応だと思います。医薬品の品質に対する国民の信頼を回復するためには、監督官庁と業界を挙げて取り組んでいかなければなりません。

 話は変わりますが、日経バイオテクの講評連載である「審査報告書を読む」を1冊の書籍にまとめました。医薬品の研究開発に関わる方は、ぜひ手に取ってみてください。

https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/info/15/100300002/120300007/

 ちょっと長くなりましたが、本日はこの辺で失礼します。

                     日経バイオテク編集長 橋本宗明