皆様こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本です。

 先日、バイオベンチャーを経営するある知人から、起業に至る裏話を聞く機会がありました。これまでに複数のベンチャー企業を経営した経験があるその知人は、日経バイオテクに掲載されていた記事の中で、ある研究者が「起業したいと考えている」と紹介されているのを見て興味を持って会いに行き、話を聞いているうちに、そのアイデアに賛同するとともに、研究者から「実は経営する人がいなくて」と打ち明けられて、「だったら私が経営者を引き受けましょう」と、とんとん拍子に話が進んだということでした。

 日経バイオテクがきっかけとなって起業したというこのエピソードを聞いて、我々の情報発信が読者の役に立てていると実感できてありがたく思うと同時に、情報伝達において何よりも重要なのは受け手の感受性であると改めて認識しました。

 学会やセミナーを取材していると、たまに「この先生の話はつまらなかった」とか、「新鮮味がなかった」とか、大きな声で話をしている人を見かけますが、「自分には感受性がない」と吹聴されているようで、とても残念な感じを受けます。聞く側の目的意識によっても違うでしょうが、同じ講演などを聞いて何らかのヒントをつかんだり、気付きを得ている人も恐らくいるわけですから、単に「つまらない」と切り捨てるのではなく、そこから何かを得るようにしていきたいものです。とはいえ私もこの研究者の講演を聞いた際に「難しいなあ」と感じたことを覚えているので、同じ話を聞いてすぐに起業を決断したという知人の感受性と行動力には頭が下がります。日本発の研究に基づくこのバイオベンチャーがビジネスで成功することを期待しています。

 さて、11月18日に中央社会保険医療協議会総会が開かれ、医薬品医療機器等法が施行されてから初めての製造販売承認となった2つの再生医療等製品の保険償還価格が決まりました。正式承認されたJCRファーマの「テムセルHS注」(ヒト(同種)骨髄由来間葉系幹細胞)は、標準的な治療に要する合計償還価格が1389万8800円。条件・期限付きで承認されたテルモの「ハートシート」(ヒト自己骨格筋由来細胞シート)は、キットなど一式で合計償還価格を1476万円とすることが了承されました。

中医協総会、2つの再生医療等製品の償還価格はいずれも1300万円超
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/092800003/111800091/

 とりわけ注目したいのは、ハートシートで骨格筋芽細胞を採取・分離するのに必要なキットと、培養後の骨格筋芽細胞を1枚のシート状に調整するのに必要なキットで別の償還価格が設定された点です。というのも、自家の再生医療等製品としてこれまでに実臨床の現場で疲れわれていたジャパン・ティッシュ・エンジニアリングのジェイスやジャックにおいて、細胞・組織の採取後に患者が死亡するケースが問題となっていたからです。今回の決定は、自家再生医療等製品に対する保険償還価格設定の在り方に1つの答えを示したものと言えそうです。

 もっとも、今回了承された保険償還価格で十分に採算が合うのかどうかは、実際に実臨床での使用が始まり、事例を重ねてみなければ何とも言えません。ただ今回の償還価格の議論も、2013年に再生医療関連2法が制定されたころからの、革新的な製品の研究開発を促進しようという政府の方針に則って行われたのは確かでしょう。今回の再生医療等製品の承認から保険償還価格の決定に至る一連の動向を見て、再生医療事業に参入しようという企業が、今後さらに増えることを期待しています。

 最後になりますが、12月1日に東京・品川で開催するセミナー「製薬企業におけるトランスレーショナルメディシンの課題」は開催が約10日後に迫ってきました。まだ参加を受け付けていますので、お申込みいただいていない方はぜひご検討のほど、よろしくお願いします。詳細は下記サイトをご覧ください。

http://nkbp.jp/1POleZW

 本日はこの辺りで失礼します。
                      日経バイオテク編集長 橋本宗明