キャリアアドバイザーの業務日誌(第12回)

タイミングを間違えてはいけない!転職における「給与交渉」【後編】

(2018.12.07 08:00)
増間大樹=リクルートキャリア LS & HC(Life Science & HealthCare)キャリアアドバイザー マネジャー

 前編では、「給与交渉は1次面接が終わったあたりから始めるのが望ましい」ということ、また、実際に応募初期の段階から年収アップに向けた戦略を立て、功を奏した事例をご紹介した。

 一方、年収交渉に失敗した事例もある。私自身も反省の念を込めてここで振り返ってみたい。

「今さら」の交渉で、企業からの信頼を損ねかけたSさん

 Sさん(30代)は応募先企業で高い評価を受け、選考はトントン拍子に進んだ。しかし、「年収」の話だけは詰められないまま進んでいった。

 私はいつものように面談の初期段階で希望年収額を尋ねたのだが、返答は「ちょっと妻にも相談してみないと……」。その後も「まだ妻と話し合えていなくて」と、あいまいな状態のまま時間が過ぎていったのだ。

 最終面接を迎え、企業側は前職年収より50万円アップを提示した。しかし、このときのSさんの反応がいけなかった。「それでお願いします」か「(入社を)前向きに考えます」か定かではないが、ともかく相手企業が「OK」と解釈するような答え方をしてしまったようだ。

 そして内定オファーが出てからようやく、Sさんは奥さんに報告。すると奥さんはこう助言したという。

 「せっかく転職するんだから、もっとアップを狙ったら。あなたが高年収で決まれば、転職エージェントもその分高い成功報酬を受け取れるんだから、エージェントも積極的に交渉してくれるはず。200万円アップで交渉してみて、100万円アップを落としどころにしたらいいんじゃない」

 奥さんは交渉術に長けた優秀なビジネスパーソンなのだろう。Sさんは素直に聞き入れ、「このように交渉してほしい」と私に依頼してきた。

 本人の意向を受ければ、私も動かないわけにはいかない。しかし、部長・役員クラスに伝わってしまうと、心証を損ね、評価が下がる恐れがある。最悪、内定取り消しにつながるリスクもある。

 それに、確かにエージェントのビジネスモデル的には、高い年収が提示されれば我々の報酬は上がるが、高い年収提示は入社直後からそれだけ高い結果を出さねばならないということにも繋がる。そうしたプレッシャーの中で万人が活躍できるわけではないことを考えると、それは本当に転職成功と言えるだろうか。

 幸い、人事担当者とは懇意にしていたので、「ちょっとここだけの話なんですが」と、オフィシャルではない体裁で話を振ってみた。

 反応は予想通りだった。

 「最終面接では承諾したのに、今さら何なんですか」

 企業側の結論は「受け入れられない」。私はここで強引に交渉するのは得策ではないことをSさんに伝え、奥さんにも納得してもらい、当初の提示額で入社に至った。もしオフィシャルに交渉を申し出ていたら、内定を撤回された可能性もあっただろう。

給与交渉のタイミング・切り出し方は、安易に自己判断してはいけない

 転職エージェントサービス『リクルートエージェント』で転職決定した方を対象に行ったアンケート調査(回答者:1201名)によると、「転職活動を振り返った際に、『力を入れておけばよかった』と思うことは何か」という質問に対し、約半数に近い44.5%の人が「待遇や勤務時間等、応募企業との条件交渉」と答えている。 

画像のクリックで拡大表示

 KさんとSさんの2人の事例が教訓となるように、年収交渉については早い段階で目標額を定め、適切なタイミングで、相手の反応を観察しながら交渉を進めることが重要だ。

 しかし、理系出身の研究職の方などは、交渉に慣れた営業職とは違い、勝手がわからないこともあるだろう。そのために、私たちエージェントがいると思っていただきたい。

 年収交渉は、ネットに載っているノウハウを真似てみてもうまくいくとは限らない。

 なぜなら、同じ人物でも会社にとって評価は大きく異なるからだ。「この経験は1000万円出してもほしい」と思う企業もあれば「800万円なら採用してもいい」「600万円でもいらない」と評価する企業もある。もちろん、職種ごとに市場の「相場」というものもある。そこを自分で見極めるのは困難だ。

 また、「交渉相手」によっても戦略が変わってくる。オーナー企業の社長など、決裁者には「姑息な交渉をしてくる人間は信用できない」と抵抗感を示す人もいれば、「上手い交渉ができる人は頼もしい。業務にも活かせる」と好評価する人もいる。企業側とコミュニケーションを取っている我々であれば、「交渉すべき相手かどうか」「どういう交渉の仕方なら受け入れられるか」を判断した上で、さじ加減を調整できる。

 年収額は非常にセンシティブな課題だ。転職活動の早い段階で家族と相談を済ませ、我々に意向を伝えてほしいと思う。そうすると我々も適切な戦略を立てることができるのだ。

写真はイメージ(提供:PIXTA)  この連載は、製薬、バイオ関連の研究職の人材流動化が進む中で、研究者としてやってきた人にはどのようなキャリアチェンジの可能性があるのか、落とし穴はないのかなど、キャリアアドバイザーの経験を通して紹介してもらうものです。企業やアカデミアの研究者がこれからの自身のキャリアについて考える一助にしていただければと思います。リクルートキャリアのキャリアアドバイザーの方に持ち回りで執筆してもらいます(写真はイメージ、提供:PIXTA)。

日経バイオテク お薦めの専門書籍・セミナー

  • セミナー「バイオベンチャーのエコシステム、その課題を激論!」
    2019年7月29日開催!伊藤レポート2.0「バイオメディカル版」の一橋大学・伊藤邦雄教授による基調講演をベースに、伊藤教授とVC、証券アナリストなどを交えて徹底討論します。新刊「バイオベンチャー大全 2019-2020」発刊記念セミナー。
  • 最新刊「バイオベンチャー大全 2019-2020」
    日本発の将来有望なシーズを実用化・事業化へつなぐ、未上場ベンチャー267社の詳細リポート集!提携先を求める製薬企業や、投資先を探るベンチャーキャピタルにとって、バイオベンチャーの企業価値、コア技術の展望を見通すために有益です。

PR・告知製品・サービス一覧人材・セミナー・学会一覧