ここ数ヵ月、バイオベンチャーの採用活動が活発化している。
 しかも、以前に比べると高い年収額で転職者を迎える傾向が表れている。

 各社の採用背景は様々だが、傾向としては大きく3つ。

・新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、投資が集まっている
・IPO(株式の新規上場)が決定した。あるいは、そのめどがついた
・以前から進めてきた事業計画が順調で、ドライブをかけるタイミングが来た

増間大樹(ますま・だいじゅ)氏
リクルートキャリア ハイキャリア統括部シニアコンサルタント。製薬業界を中心とした営業職・専門職、双方のサーチ部門を経験後、ライフサイエンス・ヘルスケア領域のアドバイザー部門のマネジャーを務める。 現在はハイキャリア領域にて医薬業界専任のコンサルタント、及び新規事業開発にも従事

 採用企業の顔ぶれはというと、上場済みで事業が拡大中のベンチャー企業もあるが、スタートアップのフェーズが多い。領域も幅広い。募集職種は研究職を中心に、事業開発のニーズもある。主にリーダークラス以上を求めており、ここ最近の特徴として、CSO(最高戦略責任者)、CTO(最高技術責任者)といった役員クラスの募集もある。

 では、実際にどんな人がバイオベンチャーに中途採用されているのか。一定数の事例が出ているのが「大手製薬企業を早期退職した、ミドル~シニア層の研究職」だ。「本当にやりたい研究ができるなら」と、バイオベンチャーでセカンドキャリアをスタートさせている。

 同様の事例は以前からあったが、コロナ禍を機に自身の人生や働き方を見つめ直し、行動を起こしている人もいるようだ。

 一方、30代の研究職が大手製薬企業を飛び出し、バイオベンチャーに移っているケースもある。採用企業側からは、「優秀な人材なら30代前半でもCTOとして迎えたい」という声も聞こえてくる。そもそもCEO(最高経営責任者)が30代の企業もあるのだ。

 大手製薬企業に在籍する30代の方々と面談をしていると、「研究だけしていて大丈夫か」という葛藤が見てとれる。彼らは先輩のベテラン研究者たちが早期退職等で会社を去っていく姿を目の当たりにしている。また、学生時代の同期が就職せずに起業する姿を間近に見ている世代でもある。それだけに、自身の将来のキャリアを模索しているようだ。

 バイオベンチャーに転職を果たした方々を見ていると、その魅力・メリットは大きく2つあると感じる。

 1つは、「いい薬を作り、病に苦しむ人々を助けて社会に貢献したい」という原点に立ち返り、純粋な気持ちでキャリアを築けるということ。もう1つは、大企業にとどまっている同世代の研究職と比べて、幅広いビジネススキルが身に付くということだ。

 バイオベンチャーでは研究だけやっていればいいということはなく、事業開発やマーケティングなどにも携わるケースが多い。CTOともなれば、「財務」の観点からCFO(最高財務責任者)との協議も行う。自ずと「ビジネス」「経営」の視点や知見が養われることになる。

 当然、慣れない業務に対応する苦労は伴うが、これらを身に付ければ、その先のキャリアには様々な選択肢が生まれる。VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代にあって、身に付けておけば損をすることはない。同分野の他の研究職と差別化できるスキルとなる。

「早期退職の対象年齢になってから動くか、早めに動くか」という求職者の葛藤

 その重要性を実感する出来事が、最近あった。とあるバイオベンチャーのCSOポジションに大手メーカーの研究職の方が応募した。1次面接を終えた後、人事担当者は転職エージェントへこうフィードバックした。

 「研究職として素晴らしいご経験をお持ちですね。ぜひ、2次面接に進んでいただきたいと思います。CSOというポジションですので、当社のCEOと対等に議論でき、研究の価値をしっかりと経営に接続していただけそうか、2次ではそちらを確認させていただきたいと思います。」

 その2次面接はまだ実施されていないので、どんな結論になるのかは分からない。しかし、多くの研究職の方は、同じ立場に立たされたとしたら「これまでそんなことを意識したことがなかった」と戸惑うのではないだろうか。

 「研究以外」のビジネス力を新たに身に付けようとしたとき、既に年齢を重ねていると柔軟にキャッチアップするのが難しいのではないか……当人も企業も、そんな不安を抱いている。

 こうした現実に気付いた大手企業在職中の研究職の方々は葛藤する。
「もう数年待てば、早期退職制度が適応になるし…」
「子供がもうすぐ大学卒業だから、それまでは…」
「だが、社外のこんなチャンスはもうないのではないか?」
などなど、なかなか決断がしづらいところだろう。

 しかし、今の仕事を続ける中でも、「ビジネス」「経営」の観点を磨くことはできる。例えば、これまでとは異なるコミュニティの人々と接する機会を作り、多角的視野を身に付けてはいかがだろうか。研究部門に閉じこもらず、社内の様々な部署を横断してコミュニケーションを取り、新たな視点を得ることをお勧めしたい。

 それができない環境であっても、現在携わっているプロジェクトに対し、経営の観点から捉えてみていただきたい。例えば、「この業務にこの人数が必要なのだろうか。人件費は適切なのだろうか」「この作業フローにはムダがあるのではないか。もっと効率化や期間短縮を図れないか」といったように。

 実際に改善提案・実行するのが望ましいが、「考えてみる」だけでもいい。その発想を持っているだけでも、他の研究職とは一線を画す人材になれるはずだ。将来、転職に踏み切ったとしたら、チャンスをつかめる可能性が高まり、実際に転職した後も生かせるだろう。

 なお、冒頭でも触れたとおり、バイオベンチャーが中途入社者を迎える場合、以前より高い年収額を提示するケースが増えている。資金調達が順調であることがうかがえる。それでも入社時には前職より年収が何割か下がるケースが多いが、事業成長後の昇給やストックオプションなどにより、前職の水準に戻せる可能性は高まっているといえるだろう。

 また、昨今の採用では、「勤務地」や「働き方」にも融通が利くようになってきた。そのトレンドについては、後編でお伝えする。