キャリアアドバイザーの業務日誌(第10回)

納得感が高い転職の決め手は「直属の上長」【後編】

上司の熱意が「嫁ブロック」を突破
(2018.10.03 08:00)
増間大樹=リクルートキャリア LS & HC(Life Science & HealthCare)キャリアアドバイザー マネジャー

 前編では、大手製薬メーカーの研究職・Kさん(30代・男性)が、メディカルサイエンスリエゾン(MSL)へのキャリアチェンジを図り、外資系製薬メーカー・X社に応募。入社後に上長となるTマネジャーと面談したことにより、入社意思を決定した経緯をお伝えした。

 しかし、内定を得たKさんの前に新たな壁が立ちはだかった。世間でいうところの「嫁ブロック」だ。妻が転職に難色を示したのだ。

 「せっかく有名大手企業に勤めているのに、聞いたこともない外資系企業に移るなんて…。」

 ごくごく定番の反対文句だ。業種問わず、大手企業からベンチャー企業へ、あるいは大手同士でも一般的知名度が低い企業に転職しようとすると、配偶者からはこうした抵抗に遭いやすい。

 妻は理解を示したとしても、妻の親が反対するケースもある。「〇〇社に勤めている君だから、安心して娘を任せられると思ったのに」と。

 私はX社の人事にこの問題を伝え、可能であればTマネジャーに再度接点を持っていただけないか、終業後、もしくは昼にKさんと奥さんとの3人で時間を取ってもらえないかと申し出た。

 「分かりました。私が奥様とお会いします。私がKさんをどれだけ評価し、期待しているかを、直接奥様にお伝えしたいと思います。セッティングしていただけますか?」

 エージェントとして間に立っている私としても大変ありがたいことだ。私はTマネジャーと作戦会議を開き、KさんのキャリアがX社でどう生かせるか、この転職によって今後どんなキャリアの広がりがあるか…など、奥様に伝えるポイントのすり合わせを行った。

 後日、KさんとKさんの妻、Tマネジャーの3人で会食。Tマネジャーは「奥様が不安に思われる気持ちはよく分かります」と、妻の気持ちに寄り添う形で会話を切り出し、自身の転職経験や、Kさんへの期待を伝えた。

 「うちの主人は、そんなにも高く評価されているんですね…!」

 Tマネジャーの真摯な姿勢と情熱のこもった話に、Kさんの妻も納得。夫の転職を承諾した。

 妻の心情としては、転職後の夫がどんな環境で、どんな人たちと働き、どう活躍できるかをイメージできれば、安心して後押しもしやすくなるのだと思う。

 このKさんのケースのように、リストラなどで切羽詰まった状況ではない場合、転職に対して配偶者の理解を得られないのはよくあることだ。

 Kさん自身は、周囲で早期退職者も出ており、業界全体で研究部門が縮小へ動いている中、危機感を抱いていた。配偶者が同業界で働いていれば、業界事情を理解しているので賛同を得やすいが、そうでない場合はなかなか理解されにくい。

 そうした場合は、業界の内情や将来展望などが記載された記事やニュースなどを見せながら説明することをお勧めしている。「この業界は先行きが危ういんだよ」と、配偶者から聞くよりも、メディアの記事を読む方が納得しやすいものだ。

 さて、一般的に見ても、転職の意思決定における配偶者の影響は大きい。

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 転職エージェントサービス『リクルートエージェント』が転職決定した方を対象に行ったアンケート調査(回答者:1201名)では、「配偶者・パートナーがいる回答者(595人)」に限った結果をみると、入社の意思決定にあたっては「配偶者の影響が最も大きい(64.0%)」という結果が出ている。

 転職は家族の生活に少なからず影響を及ぼす。配偶者の意見を尊重するのは当然といえるだろう。アンケート回答者からは、「転職先が決まった後に家族に話をした結果、反対をされてしまった」という声も聞かれた。家族への相談は、早い段階でしておくのに越したことはない。

 なお、私は転職面談のとき、年収希望の項目で「前職年収よりダウンしても可」としている方に対しては、「ご家族と話した上で、この条件に設定されましたか」と尋ねている。

 「話しました」と答えるのは約6割。約4割の方は「いや、実はこれから」と言う。これはとても危険だ。

 転職希望者は、家族に心配をかけまいとしてか、転職活動を内緒で進め、「内定を得たら話せばいい」と考えている人も多い。しかし、内定先からの給与提示が前職より低かった場合、ひと悶着起こる可能性が高いのは言うまでもない。

 転職活動をするなら、初期の段階で話し合っておくべきだ。特に年収については、ローンや教育費などを踏まえ、最低確保しなければならない額を算出しておく。そして年収が下がった場合、パートナーが働くことでカバーできるかどうかなどを相談しておきたいものだ。

 「協力して、一緒に進める」。このスタンスで転職活動に臨めば、配偶者が「壁」となるリスクはぐっと下がるのである。自分や顧客だけでなく、自身の家族も幸せになってこその転職成功なのだから。

写真はイメージ(提供:PIXTA)  この連載は、製薬、バイオ関連の研究職の人材流動化が進む中で、研究者としてやってきた人にはどのようなキャリアチェンジの可能性があるのか、落とし穴はないのかなど、キャリアアドバイザーの経験を通して紹介してもらうものです。企業やアカデミアの研究者がこれからの自身のキャリアについて考える一助にしていただければと思います。リクルートキャリアのキャリアアドバイザーの方に持ち回りで執筆してもらいます(写真はイメージ、提供:PIXTA)。

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