キャリアアドバイザーの業務日誌(第9回)

納得感が高い転職の決め手は「直属の上長」【前編】

「人事面接」だけで判断してはいけない
(2018.09.18 08:00)
増間大樹=リクルートキャリア LS & HC(Life Science & HealthCare)キャリアアドバイザー マネジャー

 「2次面接は設定していただかなくて結構です。X社は辞退します」

 Kさん(30代・男性)は、X社との1次面接を終えた後、不機嫌そうにそう告げた。

 Kさんは大手製薬メーカーの研究職。研究職としての将来像が描けなくなったため、メディカルサイエンスリエゾン(MSL)へのキャリアチェンジを図り、X社に応募した。

 X社であればKさんの専門分野を活かすことができるし、X社も書類選考時点でKさんを高く評価していた。一体、何が起きたのか。理由を聞くと、どうやら面接担当者の「態度」に不信感を抱いたらしい。

 「すごく素っ気ないというか、事務的・機械的に処理された感じなんです。『転職理由は?志望動機は?希望年収は?』と矢継ぎ早に聞かれて、『そうですか、ハイ、わかりました』と。僕に興味を持ってくれていないと感じました。面接ってこんなもんなんですかね?」

 それを聞いて私は首をかしげた。X社の人事担当者といえば面接の達人だ。面接の場を盛り上げ、応募者の入社意欲を喚起するのは得意なはず。私はX社の人事担当者にKさんの反応を伝え、「今回はどうされたですか?」と尋ねた。

 謎はすぐ解けた。その人事担当者が直前に体調を崩し、他のスタッフが代理で面接を行ったのだという。面接に慣れていないそのスタッフは、「これとこれを聞いておいて」と指示された項目を淡々と質問し、回答に対してどう深掘りしていいかもわからないまま面接を終えてしまったのだった。

 X社にとってKさんは逃したくない人材。KさんにとってもX社は今後のキャリア構築を踏まえるとベストな選択だ。ここで縁が切れたのではあまりにももったいない。

 そこで私はX社に「面接の仕切り直しをしませんか。そして、次の面接官は現場マネジャーであるTさんにしてください」と提案した。

 Tマネジャーに会えば、Kさんの意欲は必ず上がる。私にはその確信があった。というのもT氏はKさんと同じ大学出身。研究室は異なるものの、研究分野もかなり近い。大学生活、論文テーマ、学会での発表経験など、共通の話題で盛り上がれるのは間違いない。

 しかもT氏は「研究職からMSLに転身した先輩」でもある。研究職出身者の視点でMSLの仕事のやりがいを語ることができ、それはKさんにとって貴重な判断材料となるはずだ。

 こうしてKさんとTマネジャーの面接が実現。経緯を理解していたT氏は「うちの人事がつまらない面接をしてしまって申し訳ない」「僕も同じ大学なんですよ」と、Kさんの心をほぐすところから始め、予想どおり研究分野の話で盛り上がった。

 Kさんを再面接に送り出すとき、私は「これから会う方が入社後に直属の上長となり、一緒に働くことになります。その視点でKさんも再度ジャッジしてください」と伝えていた。

 面接を終えたKさんは「この人の下で働けるならすごくいいですね!」と入社意欲が上昇。その後、人事担当者、部門長との面接も経て内定に至った。

 転職先を決めるにあたり、「配属先の上長」は大きなポイントとなる。

 転職エージェントサービス『リクルートエージェント』で転職決定した方を対象に行ったアンケート調査(回答者:1201名)によると、「入社を決めるにあたって誰から影響を受けたか」の質問に対し、約半数となる44.9%の人が「配属される職場の職場長・責任者」と答えている。

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 回答者からは、「実業務で必要とされるスキルや技術を確認したかった(ITエンジニア)」「具体的な業務内容やチームの規模等を確認したかった(機械エンジニア)」「転職者でもすぐに馴染める環境か判断したかった(営業)」などの声が寄せられている。

 しかしながら、1次面接の相手は人事担当者であるケースも多い。そこで違和感や不満を抱いたとしても、すぐに「この会社はダメだ」と判断しないでほしいと思う。Kさんのケースのように、たまたま面接慣れしていない人が当たることもあり得るのだ。

 私の経験からしても、普段は人当りのよい人事担当者が、「前日にプライベートで嫌なことがあって、それを引きずってしまい、ちょっと高圧的に、不機嫌に面接してしまったかも…。応募者の方に謝っておいて」なんてことがたまにある。人事担当者も、プロではあっても人間なのだ。

 些細なボタンの掛け違いで、チャンスを手放すのはもったいない。大事なのは入社後、毎日顔を会わせて働く人との相性だ。現場の上長との面接を終えてから判断しても決して遅くはない。

 さて、晴れてX社から内定を得て、入社を決意したKさんだが、新たな壁が立ちはだかった。

 世間でいうところの「嫁ブロック」だ。有名な国内大手企業を辞めて、一般的知名度が低い外資系企業に転職することに対し、妻から反発が起きた。

 そしてこのブロックを破ったのもまた、Tマネジャーの存在だった。

写真はイメージ(提供:PIXTA)  この連載は、製薬、バイオ関連の研究職の人材流動化が進む中で、研究者としてやってきた人にはどのようなキャリアチェンジの可能性があるのか、落とし穴はないのかなど、キャリアアドバイザーの経験を通して紹介してもらうものです。企業やアカデミアの研究者がこれからの自身のキャリアについて考える一助にしていただければと思います。リクルートキャリアのキャリアアドバイザーの方に持ち回りで執筆してもらいます(写真はイメージ、提供:PIXTA)。

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