キャリアアドバイザーの業務日誌(第19回)

40代目前の女性研究者、民間勤務経験無しでも大手企業に転職できたワケ

(2019.08.08 08:00)
菊竹ふみ=リクルートキャリア ヘルスケア領域専門アドバイザー
リクルートキャリアでヘルスケア領域専門アドバイザーを務める菊竹ふみ氏

 「私の専門領域のプロジェクトが終了することになって……居場所を失ってしまうんです」――切羽詰まって転職相談に訪れたMさん(30代後半・女性)のご経歴を拝見した当初、私は「苦戦を強いられるだろう」と考えた。

 Mさんは大学の研究室で、再生医療技術を使った製品の臨床研究を手がけてきた方。民間企業で働いた経験がなく、かつ40代目前という年齢では、過去に転職成功事例はあまり見られない。「難しいだろう」というのが第一印象だった。しかしその予測をくつがえし、Mさんは大手企業への転職を成功させた。

 転職サポートを開始し、まず行ったのは「強みの整理」だった。再生医療の専門知識以外に、転職市場で評価されるような強みがあるかどうか。これまでどのように働いてきたのかをお聞きし、経験の棚卸しを行った。

 そこで浮かび上がったMさんの強み。その一つは「全工程を俯瞰し、幅広い業務を経験している」ということだ。つまり「作業の一部を担当するだけでなく、何でもやってきた」ということ。研究の計画を立てるところから臨床実験、さらには行政機関との折衝まで、入口から出口までの業務に携わってこられた。こうしたケースは、民間企業ではあまり見られない。「プロジェクト全体への理解」、そして「さまざまな業務に対応する柔軟性」は、大きな強みといえる。

 また、再生医療の領域では臨床研究まで到達していない企業も多い中、臨床研究を推進してきたのも貴重な経験だ。それらの経験を職務経歴書と面接で伝えるようにアドバイスをした。

 転職に対しては不安を抱き、自信がないように見えたMさん。しかし、専門領域で手がけてきたことに対しては強い自負と誇りを感じられた。私は「その想いを大切にしてください」と伝えた。

 Mさんのように転職理由が「やむを得ない事情で」という場合、「とりあえずどこかで内定をもらえれば」と、消極的・受身的な姿勢になってしまうこともある。そうならないよう、「専門性を生かし、これから何を実現したいのか」という意識を忘れずに、面接でもそれを伝えましょう、と念を押した。

 こうして戦略の方向性は決めたものの、Mさんの専門領域を対象とする求人は多くはない。それでも何社かの医薬品メーカーから該当する求人が寄せられており、すべてに応募した。しかし、いずれも書類選考を通過できない。想定どおり「民間企業で経験がない」「経験と年齢のバランス」というのが、不採用の理由だ。

 別の可能性を探った私は、大手の開発業務受託機関(Contract Research Organization、以下CRO)であるX社に目を止めた。以前、X社の営業担当者が「再生医療関連のプロジェクトが増えている」と話していたのを思い出したのだ。X社から再生医療関連の求人は出ていなかったが、Mさんから了承を得て、彼女の経歴をX社に案内した。

 X社の反応は早かった。「ぜひお会いしたい」と面接が組まれると、再生医療分野での経験が評価され、とんとん拍子に採用に至った。

 多くの企業ではネックとされがちな「年齢」も、今回は功を奏した。CROの場合、クライアントに対するコンサルティング的な役割を担うこともある。その点では、若手よりも経験を積んだベテランのほうが適していると見なされたようだ。研究室時代、外部との折衝経験から培われたコミュニケーション力も、そうした場面で生かせるだろう。

 「転職するとしたらメーカーかな」と想像していたMさんにとって、「CRO」は思いがけない選択肢だった。イメージとしていたのと全く異なる展開に遭遇したとき、腰が引けてしまう人も多い。戸惑い、拒絶反応を起こしてしまう人もいる。けれど、彼女はとても柔軟だった。意外な選択肢に対し、「新しいチャレンジができる」とポジティブに受け止めた。「未知の領域だけど、経験を生かせるなら飛び込んでみよう」と決断したのである。

 こうして、当初「難しいだろう」と感じたMさんの転職においては、無事内定を得ることができ、新たな場所で、活躍の第1歩を歩み始めている。

 この事例を通じて、私自身が改めて学んだのは、「マーケットは着々と変化している」ということだ。「アカデミアの経験だけでは」「この年齢では」と、過去の転職事例データから判断していたが、再生医療という新たな領域に向き合うにあたり、過去の事例にとらわれていてはいけない、と。時代の変化に応じ、価値評価も変わっていく。変化をキャッチアップし続け、転職希望者の皆さんの可能性を正しく見極めていきたいと思う。

写真はイメージ(提供:PIXTA)  この連載は、製薬、バイオ関連の研究職の人材流動化が進む中で、研究者としてやってきた人にはどのようなキャリアチェンジの可能性があるのか、落とし穴はないのかなど、キャリアアドバイザーの経験を通して紹介してもらうものです。企業やアカデミアの研究者がこれからの自身のキャリアについて考える一助にしていただければと思います。リクルートキャリアのキャリアアドバイザーの方に持ち回りで執筆してもらいます(写真はイメージ、提供:PIXTA)。

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