キャリアアドバイザーの業務日誌(第18回)

「書類選考落ち」から逆転採用を勝ち取ったMR

(2019.07.04 08:00)
峰本佳代子=リクルートキャリア ハイキャリア・グローバルコンサルティング部 医薬専門職担当
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 「この方が書類選考落ちだなんて、そんなはずはない」──。外資系製薬企業のX社から、Sさんの書類選考結果について「不合格」の連絡を受けたとき、私はとっさにそう思った。

 「なぜSさんが不採用なんですか」。すぐにX社に問い合わせると、人事担当者からは「経験不足」という答えが返ってきた。やはり私は思った。「そんなはずはない」。

 しかし、さらに深く聞くと、ある問題が浮かび上がってきた。それを基に、私とSさんの「逆転採用」への戦略策定が始まったのである。

 Sさん(20代後半・男性)は、新卒で外資系製薬企業に入社。あるスペシャリティ領域──ここでは仮に「A領域」と呼ぶが、その専任担当医薬情報担当者(MR)として経験を積んできた。A領域のプロとして誇りを持ち、大きなやりがいを感じていたという。

 ところが、家庭の事情により一度転職をしたが、それはA領域への転職ではなく、異なる領域におけるMR職だった。

 A領域への想いを抱えながら転職先での仕事も慣れてきたころ。Sさんの耳に気になる情報が飛び込んできた。

 「X社が日本市場でA領域製品の拡販に乗り出すらしい」

 A領域から離れてもなお、こだわりを捨てきれなかったSさん。いてもたってもいられなくなり、私に再びコンタクトを取った。

 「X社がA領域のMRを大量採用するようですね。応募したいのですが、再度サポートいただけますでしょうか」
 「もちろんお手伝いしますが…でも、よろしいんですか。前回の転職から日が浅いため、短期離職になるためリスクはありますし、中長期的に見た時のキャリアの見られ方にも多少影響してしまいます」
 「自分でも深く考えましたし、家族とはじっくり話し合いました。でもどうしてもA領域のこの事業に挑戦したいんです」
 「わかりました。そこまでお気持ちが固いのでしたらぜひサポートさせてください。すぐにX社に応募の手続きを取りますね」

 再びA領域で働けるチャンスを得たSさん。しかし、冒頭で触れたとおり、書類選考で不合格を言い渡されてしまった。理由は「経験不足」。

 私は納得できなかった。確かに、直近ではA領域から離れている。しかし、X社に応募している他の方々の経歴と見比べても、Sさんは余裕で通過するレベルの経歴だ。その見解をX社の人事担当者に伝えると、こんな答えが返ってきた。

 「確かにSさんはA領域で十分な経験を積まれています。でも今回、当社が求めているのはA領域の中でも『B製品群』の経験なんです。SさんはBの経験は乏しいと判断したわけです」

 私はSさんの職務経歴書を見直した。確かにB製品群の経験に関する記述は薄い。しかし、職務経歴書に書かれていることが全てとは限らない。私は再びSさんとの面談を組んだ。

 「X社は今回、B製品群の経験を求めているそうなんです。Sさんは前の会社でBに携わったことはありますか」

 すると、SさんはB製品を扱った経験もあるという。さらに掘り下げて話を伺うと、B製品の拡販プロジェクトでしっかりとした戦略を立て、独自の工夫と行動で成果を挙げていた。それを「ノウハウ化」できており、X社でも十分再現できると判断できる。しかし、それが書類上では伝わっていなかったのだ。

 私はX社に連絡し、SさんがB製品について十分な実績を持っていること、そしてA領域への想いが非常に強いことを伝えた。こうしてSさんはX社の1次選考を通過し、面接へ。Sさんは面接の場でB製品に関する経験を詳細に話し、ようやく「正当な評価」を獲得した。

 新しい組織の立ち上げ時には、チームビルディングも重要だ。面接でSさんに対面した人事担当者は、彼の人当たりの良さ、誠実さ、コミュニケーション力も高く評価し、無事採用に至った。

 今回、Sさんは私に相談する前にX社の採用情報を入手していた。転職サイトなど他のルートを辿って自主応募することもできたはずだ。ただ、もしそうしていたとしたら、Sさんはそのまま書類選考で敗退し、なぜ自分が落とされたのか、ずっとわからないままだっただろう。一般的に企業が応募者に対して直接不採用を通知する場合、その理由まで伝えることはないからだ。しかし、転職エージェントに対しては、今後の人材マッチングの精度を高めるためにも、不採用理由を率直に伝えてくれる。だから今回のように、逆転を目指す対策を打つことができた。

 今回は、転職エージェントとして「介在価値」を発揮できたという点で、私にとってもうれしい事例となった。そして、これからも企業の一次評価を鵜呑みにすることなく、「この応募者の強みは本当に伝わっているか」をしっかり見つめて行こう、と、そんな決意を新たにしたのである。

写真はイメージ(提供:PIXTA)  この連載は、製薬、バイオ関連の研究職の人材流動化が進む中で、研究者としてやってきた人にはどのようなキャリアチェンジの可能性があるのか、落とし穴はないのかなど、キャリアアドバイザーの経験を通して紹介してもらうものです。企業やアカデミアの研究者がこれからの自身のキャリアについて考える一助にしていただければと思います。リクルートキャリアのキャリアアドバイザーの方に持ち回りで執筆してもらいます(写真はイメージ、提供:PIXTA)。

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