キャリアアドバイザーの業務日誌(第6回)

新規事業の活発化でニーズが高まる「戦略的知財」

(2018.06.13 08:00)
橋本尚弥=リクルートキャリア エージェント事業本部 ハイキャリア・グローバルコンサルティング

 「私は知財のスペシャリストとして、経営に近い距離で働きたいんです。研究開発部門と事業部門、そして知財部門、三位一体となってこそ、研究成果を経営に活かすことができると思いますから」

 Mさん(40代)は、転職活動を始めた理由をそう語った。

 Mさんは、大手化学メーカーのヘルスケア領域で知財部門のマネジャーを務めていた。しかし、会社の方針が変わり、知財部門が別会社へ切り出されるになったという。

 「新体制では、自分が実現したいことはできない」と、次のステージを探すために転職支援サービスに登録したMさん。彼の経歴を見た瞬間、私は「まさにX社が求めている人材だ」と思った。

 X社とは大手化学素材メーカー。ヘルスケア領域において新たな事業を立ち上げるために、同社として初となる知財部門の管理職を求めていた。

 Mさんにコンタクトを取り、X社の取り組みについて伝えると、「すごく面白そうですね」という反応が返ってきた。X社もMさんを高く評価し、「ぜひ採用したい」と即決した。

 しかし、Mさんはすぐには答えを出せなかった。複数企業から内定を得ていたのだ。化粧品メーカーや食品メーカーなど、いずれも業界トップクラスの企業。どこを選んでも、豊富なリソースに恵まれ、知財として価値を発揮できる機会が豊富にあることが予想できた。

 それでも、Mさんは最終的にX社を選んだ。決め手となったのは、X社の知財部門のトップの考え方だった。

 「研究開発部門や事業部門から言われたとおりに動く、受け身の姿勢ではいたくない。経営的観点で物事を捉え自ら各事業部に働きかけ情報を集める一方で、知財部門としてマーケット環境を分析する。そして知財戦略を立て各事業部と協業して事業を推進していく。また分析結果によっては新規事業として参入すべきではないと進言することも必要だ――その考えを聞いて、自分が大切にしたいスタンスと一致している、と思ったのです」

 年収およそ100万円アップでX社に迎えられたMさん。入社後の評価は極めて高く、X社からは「Mさんのような人材をもっと紹介してほしい」と依頼されている。

 さて、このような知財の採用事例はX社に限った話ではない。

 現在、大手化学・素材メーカーでは、ヘルスケア領域に新たに参入していく潮流が加速している。新規事業を展開していく上では、まずはマクロでマーケットをとらえ、そのマーケットに参入すべきかどうかの判断が重要となる。そして、他社の特許保有状況を把握し、自社は何をコア技術として打ち出していくべきかを見極める必要がある。それを担う人材として、知財のスペシャリストのニーズが高まっているのだ。

 特にマネジメントクラスの求人がえており、30代から40代までの経験者は引く手あまたとなっている。弁理士資格の有無は問われない。

 知財が担う役割の範囲は、会社によって大きく異なっている。研究部門からの要請に応じて特許出願・権利化を進めるのが主な業務の場合もあれば、出願するかどうか、さらには取得済特許を放棄するかどうかといったポートフォリオマネジメントや権利活用を念頭に置いた知財活動を推進する知財部もある。

 いずれにしても、各社の経営層や知財部門のトップと話していると「知財戦略」というキーワードが度々聞こえてくる。それをすでに具体化できている企業もあれば、まだ漠然とした状態の企業もあるが、「経営戦略の一貫として知財戦略がある」という意識が高まっているのは疑いようがない。

 この傾向を踏まえると、これからの知財人材に求められるのは「経営視点」と「周囲を巻き込む力」、そして「事業を推進する、という当事者意識」だと言えるだろう。

 例えば、研究部門が開発した技術について判断する際には、営業部門との連携が重要になってくる。他社からはどんな製品が出てきているのか、今後どんな製品が出てきそうなのか、タイムリーに情報をつかんでいるのは営業部門である。そうした情報をすばやくキャッチできる体制にするには、日頃の関係構築が欠かせない。

 つまり、これからの知財職は、研究部門から提出された技術に向き合うだけでなく、各部署をつなぐパイプ役となり、そしてリードしていく人材が求めらていくことになるだろう。

 「知財のスペシャリストとして、経営にインパクトを与えたい」――そんな志向を持つ人にとっては、魅力的な求人が増えてくるはず。自分の志向に合った知財戦略を持つ企業を、ぜひ探してみてほしい。

写真はイメージ(提供:PIXTA)  この連載は、製薬、バイオ関連の研究職の人材流動化が進む中で、研究者としてやってきた人にはどのようなキャリアチェンジの可能性があるのか、落とし穴はないのかなど、キャリアアドバイザーの経験を通して紹介してもらうものです。企業やアカデミアの研究者がこれからの自身のキャリアについて考える一助にしていただければと思います。リクルートキャリアのキャリアアドバイザーの方に持ち回りで執筆してもらいます(写真はイメージ、提供:PIXTA)。

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