「研究の仕事ができるのであれば『派遣』でもいいと思ったんです。でも、やっぱりメーカーの正社員を目指したい」

 医薬品・医療機器業界の研究職の皆さんからは、そんなご相談がよく寄せられる。

 学生時代の就職活動でメーカーの研究職を目指したものの、メーカーの採用枠は限られており、就職が叶わなかった。そこで、エンジニア派遣会社に入社して研究職の仕事に就いたものの、数年を経て、「やはりメーカーの正社員になりたい」という想いを強くする方が少なくないのだ。

 その主な理由は「より幅広い業務、深い業務を手掛けたい」「裁量権を持って業務を推進する立場になりたい。新たなチャレンジがしたい」。

 また、将来家庭を持つことを想定したとき、収入面に不安を抱き、より給与水準が高いメーカーを希望するといった事情も見受けられる。

 一方、メーカーの研究職採用に目を向けると、派遣で働いてきた研究職を中途の正社員採用で受け入れる企業が増えている。事業拡大を図る企業などで、若手を中途で採用して育成したいとするニーズがあるのだ。特に、遺伝子・再生医療といった先端医療の分野が採用に意欲的だ。ベンチャー企業が多いが、大手企業の求人もある。

派遣の研究職が評価されるポイントは?

 派遣で働いてきた研究職を、メーカーの人事はどのように見ているのだろうか。期待されるのは、次のポイントだ。

●派遣で培った経験・スキル
 派遣の研究職には、最新鋭の機材を用いた分析など、高度な経験を積んでいる人も多い。派遣先で磨いた知見やスキルが生かせる。

●研究への情熱・意欲
 大学・大学院卒業後、研究の道を諦め、正社員として別の仕事に就く人が多い中、「派遣でもいいから研究がしたい」という情熱を持っている。

●派遣スタッフのマネジメント力
 メーカーの正社員には、「派遣スタッフの指導・マネジメント」の業務もある。もともと派遣として働いていたなら、その人たちの気持ちを理解した上で適切なマネジメントができる。

 なお、評価されるのは、派遣時代の経験だけではない。学生時代の研究経験が即戦力になるケースもあるため、人事は「学生時代の研究テーマ・手法」にも注目しているのだ。

実際、私が最近お手伝いした転職事例には、次のようなものがある。

●Aさん(20代半ば)
・派遣で経験した業務/大手製薬メーカーでのDNAの解析業務
・転職先/医療ベンチャー企業のDNA解析業務担当。いずれは新規事業にも携わる予定
・年収変化/数十万円アップ

●Bさん(20代半ば)< ・派遣で経験した業務/医薬品の原薬の分析
・転職先/大手医薬品メーカーの品質管理担当
・年収変化/100万円以上アップ

 AさんとBさんが評価されたポイントには共通点がある。1つは、派遣先で手掛けている領域に、学生時代から従事しているということ。その知見の深さがプラス評価される。

 そしてもう1つは「主体性」「積極性」だ。Aさんは、派遣先から指示されたことをただこなすだけでなく、独自の工夫で分析データを作成していた。Bさんは、分析手法を自ら開発する他、正社員に交渉して担当以外の業務にも携わっていた。

 「派遣だから、正社員の指示に従っていればいい」という姿勢ではなく、自分で考え、行動を起こしていたのだ。それが採用の決め手となった。

 この他、「研究」以外の経験が評価され、採用に至った例もある。

●Cさん(30代前半)
・派遣で経験した業務/研究機関でのサポート業務全般。データ採取・備品管理・論文作成補助など
・転職先/化粧品メーカーの学術
・年収変化/数十万円アップ

 研究機関において日々「論文」に触れていた経験が買われ、「メーカーの学術」というポジションを得た事例だ。Cさん自身は、この経験が突破口となるとは予想もしなかっただろう。

 派遣から正社員への転職を成功させる秘訣。それは自身の経験や取り組み姿勢を言語化し、相手に伝えることだ。しかし、自分の経験を整理できていない、スキルに自信が無い、職務経歴書の書き方も分からない……という方が非常に多い。

 そこで、私との面談では、これまでを振り返り「学生時代の研究テーマ」から「派遣で積んだ経験」「主体性・積極性を持って取り組んだ経験」などを整理している。新任の派遣スタッフに対する「指導・育成」の経験も、ぜひアピールしたいポイントだ。メインの担当業務だけでなく、サポート的に関わった業務が思いがけず評価を得ることもあるので、細かい経験まで洗い出す。

 そして重要なのは、やはり「研究への思い」だ。学生時代に進路を選ぶ際、なぜその領域に興味を持ったのか、実際にその道に入り、どんな思いで続けてきたのか、これからどんな研究者を目指していきたいのか──対話を重ねていくと、その人らしい思いやこだわりが浮き彫りになってくる。それを相手企業に伝えれば、チャンスをつかめる可能性は格段に高まるのだ。

 「自分の経験と思いに、自信を持ってください」。そう声を大にして伝えたいと思う。