キャリアアドバイザーの業務日誌(第14回)

「国内製薬企業勤続20年」から「ITメガベンチャー」へ

(2019.02.26 08:00)
福田恭子=リクルートキャリア ハイキャリア・グローバルコンサルティング部 医薬専門職担当
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 準大手の国内製薬企業で勤続20年を超えるTさん(40代後半・男性)は、やむを得ない事情で退職し、転職活動を開始した。最終的に入社を決めたのはITメガベンチャーだった。「まさか自分にこんな一面があったなんて」とご本人も驚く、思いがけない選択だった。

 「私にはこれといったコアスキルというものがなくて。どこか拾ってくれる会社はないものでしょうか。年収ダウンしても構いません」

 初回の面談時、Tさんはとても弱気だった。国内製薬企業に在籍した20年の間、創薬研究、マーケティング、営業、プロダクトマネジメント、メディカルアフェアーズなど、様々な部門・職種を渡り歩いてきており、「これといった強みがない」と言う。しかも、前職を退職した理由は「担当プロジェクトの失敗の責任を負って」ということだった。自信を失くすのも無理はない。

 けれど、私から見れば、Tさんは悲観する必要などなかった。

 「コアスキルがない、と仰いますが、大丈夫ですよ。逆に『経験の幅広さ』で勝負できる求人はたくさんありますから、そこを狙っていきましょう」

 そう告げるとTさんの表情は晴れ、面談後の夜、熱いメールが届いた。

 「とても勇気づけられました。頑張りますのでよろしくお願いします」

 その文面からは、とても真摯で謙虚な人柄が見て取れた。

 「この方なら大丈夫だ」――そんな私の直感は、後に現実となる。

 さっそくTさんの経験が活かせる求人をピックアップ。メディカルアフェアーズ、マーケティングなど、40ほどの求人案件をご紹介した。製薬企業はもちろん、ヘルスケア分野に参入している異業種企業も選択肢に挙げた。

 20社から30社ほどに応募し、面接を受ける中で、Tさんはある企業に強く惹かれるようになる。ヘルスケア分野で新規事業立ち上げを行っているITメガベンチャー・X社だ。その理由を、Tさんはこう語った。

 「製薬企業だと、仕事内容も働き方も想像がつきます。でも、それを楽しそうだとは思えない。一方、X社を訪問して会社の雰囲気を感じ、面接でお話しして、とてもワクワクしたんです」

 若手社員が多くベンチャー気質が色濃く残るX社は、Tさんが20年在籍した製薬企業とは180度社風が異なる。しかし、自分より若い面接官がジーンズ姿で現れたのさえも、Tさんは新鮮で面白く感じたという。何より、社内に医療の専門知識を持つ人がいないという状況で、自分の経験が活かせることにやりがいを見出したのだ。

 「この会社なら、あと20年のビジネス人生、楽しく仕事をしていけるんじゃないかと思うんです。意外ですね。自分の中にこんなチャレンジ精神があったなんて」

 肝心のX社側の評価だが、「こんなに幅広い経験を持つ優秀な方が応募してくださるなんて」と歓迎。書類選考の段階では、「40代後半で1社経験。柔軟性に乏しいのでは」という懸念もあったようだが、私も感じていた「謙虚で真摯な姿勢」が先方にも伝わり、その不安は払拭された。

 こうしてTさんは晴れて採用に。入社後にお会いすると、初回面談時の自信なさげな様子とは打って変わって、はつらつとした表情をされていた。

 さて、Tさんの転職にはいくつかの「成功ポイント」がある。

<成功ポイント1>
自分の目で企業を確認し、フィット感を判断した

 通常、求人票を見ただけで「自分には合わないだろう」と判断する人も多い中、Tさんは「書類だけではイメージがわかないから、実際に足を運び、面接を受けて判断したい」と、幅広い会社に応募。直接相手企業に接し、自分が活躍できるかどうかをイメージした。

<成功ポイント2>
素直にアドバイスを求め、謙虚に受け入れる広い心があった

 「X社の採用支援を担当している方に面接のアドバイスをしていただきたい」と仰るので、面談の場をセッティング。Tさんは一回り以上も若い担当者のアドバイスを謙虚に受け止め、対策を練った。

<成功ポイント3>
相手企業の懸念点を払拭するための準備をした

 「X社の面接では柔軟性が見られている」という私たちからのアドバイスを受けて、対策。前の会社では何度も部門異動を経験していること、新しく配属された先でどのように既存メンバーとなじんでいったのか、具体的なエピソードを準備して伝え、柔軟性があることを証明した。

<成功ポイント4>
ネガティブな転職理由を正直に伝えた

 「プロジェクト失敗の責任を取らされた」というネガティブな転職理由を正直に話すか、隠しておくかを悩まれた。私との話し合いの結果、「突っ込まれたときにあやふやな態度を取ると、人としての信頼を損ねる」と考え、正直に話すことに。X社から深く突っ込まれることはなかった。

 なお、今回のX社のように、異業種企業がヘルスケア事業に参入、あるいは強化する場合、製薬業界出身者を対象に採用を行うケースは多い。特にIT・ネット業界では、テクノロジーと掛け合わせたヘルステックで新しいビジネスの創出を図る企業が増えている。事業の立ち上げフェーズでは、Tさんのようにマネジメント業務を含む幅広い知識・経験を持つ人が歓迎される。

 世の中に新たな価値を生み出すチャレンジを「面白そうだ」と感じる方は、ぜひ注目してみてほしい。

写真はイメージ(提供:PIXTA)  この連載は、製薬、バイオ関連の研究職の人材流動化が進む中で、研究者としてやってきた人にはどのようなキャリアチェンジの可能性があるのか、落とし穴はないのかなど、キャリアアドバイザーの経験を通して紹介してもらうものです。企業やアカデミアの研究者がこれからの自身のキャリアについて考える一助にしていただければと思います。リクルートキャリアのキャリアアドバイザーの方に持ち回りで執筆してもらいます(写真はイメージ、提供:PIXTA)。

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