キャリアアドバイザーの業務日誌(第13回)

「部門縮小・撤退」がきっかけの転職、明暗を分けた要因は……

(2019.01.22 08:00)
福田恭子=リクルートキャリア ハイキャリア・グローバルコンサルティング部 医薬専門職担当

 「○○社で何かが起きている。早期退職の募集が発表されたか、それとも事業部門の縮小・撤退が決まったか…」

 私たちは企業のそうした動きを察知することがある。同じ会社の人が1日に複数人、転職エージェントサービスに登録してきたときだ。

 早期退職者募集が始まった場合、あるいは事業部門の縮小・撤退の話が出た場合、転職活動に動きだすタイミングは人それぞれ。すぐに求人情報収集を始める人もいれば、数週間から数カ月経ってから腰を上げる人もいる。そしてそのタイミングが、転職活動の明暗を分けることもある。

 「近々、組織の大改編があるようなんです。私が所属する研究部門は縮小されるかもしれません」

 大手製薬企業A社の研究職・Mさん(20代後半・女性)は、社内でのアナウンスを受けてすぐに転職相談にやってきた。彼女はこの先も研究職を続けることを希望。希望条件に合う求人を探すと、準大手B社からちょうど研究職の募集が寄せられていた。

 しかし、募集締め切りは明日。これまで転職経験がない彼女は、職務経歴書もまだ作成していない状態だったが「応募します」と即断した。

 初回面談のその日のうちに職務経歴書の書き方をアドバイスすると、Mさんは翌日午前中に職務経歴書を書き上げた。その結果、高い競争倍率を勝ち抜き、採用に至る。自分の専門性を活かした研究を続けられることを彼女は喜んだ。

 それから1カ月後ほど経った頃のことだ。Fさん(30代・男性)が転職相談にやってきた。

 「B社の研究職の求人はありませんか。B社には私の専門分野が活かせる事業部門があると思うのですが」

 B社の研究職募集は、つい先月、Mさんが採用されたため、募集はクローズしている。手元の求人には、B社の他にFさんの志向に合う研究職の求人はなかった。
このFさんはA社に勤務する、Mさんの元同僚だ。Mさんと同じ部門にいたのだから、専門分野は同じ。2人が同じB社を希望したのは自然な成り行きだった。

 しかし、Fさんは出遅れた。もし1カ月前、B社の人事がFさんとMさんのキャリアを見比べて選考していたら、Fさんの方が選ばれていた可能性は十分にある。しかしまさに「早く動いた者勝ち」の結果となったのだ。

 結局Fさんは複数の選択肢を探った後、転職をあきらめ、A社に残る決断をした。その後、A社では組織改編が行われ、Fさんは子会社の研究部門に転籍。希望していたキャリアは描けずに今に至るようだ。

 このような転職事例は、製薬業界で大規模な組織再編が起きた際にもよく見られる。

 例えばA社が事業撤退や人員削減を発表したら、同業他社、あるいはその事業に進出しようとしている異業種企業などは、削減対象となるA社の社員をターゲットに採用活動を開始する。そして、いち早く転職活動を開始したA社社員が次々と採用されると、あるタイミングで突然シャッターが下ろされ、私たち転職エージェントにはこんな通達が出されるのだ。

 「同企業の方からのご応募が多いので、いったん新規のご紹介を止めてください。」

 特に早期退職者募集では、例えば秋頃から募集が始まり、退職は3月など、募集から退社までに半年ほどの期間がある場合が多い。そのため、組織再編の発表に合わせて退職者の募集が始まっても、何カ月か経ってからようやく転職活動を開始する人も多い。しかし、そのときはすでにシャッターが固く閉じられているケースも少なくない。これは、ある人事担当者の言葉だ。

 「今から動き出すのは、判断が遅いですよね。アンテナが鈍いのではないかと思います。」

 実際に転職希望者の方々とお会いしている私の感覚としては、動き出すのが遅い人の主な理由は、「慎重に様子を探っている」ところにある。「再編後の組織はどうなるのか」「自分はどの部署に異動することになるのか」と。研究職には、目の前の課題がクリアにならないと、次の課題に向き合いにくい人も多いようだ。
また、いざ転職市場に出てみると、自分が思うような評価を得られないことに気付く人が少なくない。

 組織改革・再編、早期退職者募集がきっかけの転職活動では、自分と同じ部門・同じスキルレベルの人たちがライバルになる。そこで明暗を分けるのは、スピーディな行動と、日頃から「キャリアオーナーシップ」を持っているかどうかである。「自分のキャリアは会社が考えて用意してくれるもの」という意識は取り払い、自分のキャリアは自分で選び、築き上げるという考えにシフトすることをお勧めする。そうすれば、異変が起こらなくても、自分にとっての「動くべきタイミング」を的確に判断できるようになるはずだ。

写真はイメージ(提供:PIXTA)  この連載は、製薬、バイオ関連の研究職の人材流動化が進む中で、研究者としてやってきた人にはどのようなキャリアチェンジの可能性があるのか、落とし穴はないのかなど、キャリアアドバイザーの経験を通して紹介してもらうものです。企業やアカデミアの研究者がこれからの自身のキャリアについて考える一助にしていただければと思います。リクルートキャリアのキャリアアドバイザーの方に持ち回りで執筆してもらいます(写真はイメージ、提供:PIXTA)。

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