新春展望2018

社会的創薬というバイオテク企業の未来の姿

(2018.01.03 08:00)
稲葉太郎=レミジェス・ベンチャーズ マネージング・パートナー、一般社団法人こいのぼり 理事

 謹んで新年のお祝いを申し上げます。小生が代表パートナーを務めている米Remiges Ventures社は、お陰様で4度目の新年を迎えることができました。これもひとえに出資者を初めとする皆様方のご協力の賜物と、心より御礼申し上げます。

 Remiges社は、米国ボストンと東京に拠点を持ち、創薬ベンチャーを支援するベンチャーキャピタルで、シード・アーリーステージの創薬ベンチャーを投資・支援対象としています。投資先企業は、フランス、イスラエル、ドイツ、米国、日本に広がっております。シリーズ Aラウンド等のリード投資家として、シンジケーションを形成し、投資後はこれら投資先企業の経営参加・支援を行っております。日本の大学等の独創的な技術に基づくスピンアウト案件も注力領域のひとつで、当社が主体となって新会社の設立及び経営チームのリクルート等を行っております。創薬ベンチャー投資の現場から雰囲気をお伝えしますと、現在は癌免疫領域が最も活況を呈しており、癌免疫チェックポイント阻害薬が効かないいわゆる「cold tumor」や癌微小環境に関し、ユニークな発見に基づく起業が活発に行われています。また中枢神経領域においても、自然免疫系細胞など、非神経細胞の非自律的な病態に着目した起業が活発です。全般に分子レベルだけでなく、細胞・組織レベル、あるいはより巨視的な、ホリスティックな生物学的視点に着目した戦略に基づく創薬プログラムが増えているように感じられます。免疫と代謝、外分泌と中枢神経、神経と免疫等、旧来の枠組みの境界領域で新たな発見と起業がなされています。

 さて、年初のメッセージとして、難病ミトコンドリア病の有効な治療方法を確立するための支援活動を行っている非営利団体、一般社団法人こいのぼり(こいのぼり)について書かせていただきたいと思います。2017年は、こいのぼりにとって特別な年となりました。7月には、7 SEAS PROJECT(7SP)のキックオフミーティングが開催され、新たな社会的創薬プロジェクトが発足しました。プロジェクトの篠原智昭代表は、5歳になるミトコンドリア病の患者さん篠原七海さんのお父さんです。菅沼正司共同代表は、医師で菅沼医院の院長を務めておりますが、義理の甥子さんがミトコンドリア脳筋症を患っています。この二人が中心となってミトコンドリア病および関連疾患の具体的な治療法の研究開発を行っています。

 ミトコンドリア病には、ミトコンドリア遺伝子や核のミトコンドリア関連遺伝子の変異等によって生じる生命に関わる疾患が含まれており、各国で難病指定を受けています。7SPは国内6大学と連携し、この病気の具体的治療薬の創製を目標に、世界でも類を見ないユニークなテーマの下、研究開発を行っています。非営利プロジェクトですが、治療薬を商業ベースまで持っていくことを目標としています。画期的な新薬シーズを見つけ、商業化に耐える知財を固めることで必要な資金を集め、自ら開発を進め、最終的には製薬企業に製造・販売してもらうことで、将来より多くの患者さんに治療薬が届けられると考えるからです。

 篠原代表は昨年長年勤めた小学校を辞め、7SPに専念することになりました。本人は「この創薬がうまくいき、娘がこの病気を克服できるという根拠がない自信があります」と明るく笑っていますが、安定した人生を捨て、社会的創薬に身を捧げる決心をした背景には、娘さんを思うご家族の強い想い、そしてこの病気を何とか克服したいという切なる願いがあります。日々本当に献身的に活動をされています。また菅沼共同代表も、膨大な量の文献を読み、独創的な研究テーマを考え、多忙なスケジュールを縫って全国の研究者たちと協議し、7SPのために身を粉にされています。二人共この領域では世界の専門家に負けない情報量と知識を持っています。ポンペ病という別の難病に苦しむ我が子を治す薬を開発するために、米国で創薬ベンチャーNovazyme Pharmaceuticals社を立ち上げたJohn Crowley氏については、同氏を描いた映画「小さな命が呼ぶとき」を通じてご存知の方も多いと思います。7SPの現場では、日々、日本版「小さな命が呼ぶとき」の光景が繰り広げられています。

 昨年は、そんな7SPにとって幾つかの素晴らしい進捗がありました。1つ目は日本の多くの大学の研究者・関係者が、本プロジェクトに心から共感・賛同してくれ、共同研究を引き受けてくれたことです。先生方・研究者の皆さんの純粋な想いに、我々メンバーは大きなエネルギーを頂いています。2つ目は、こいのぼりが(公財)信頼資本財団の支援プロジェクトに採択され、多くの方々から寄付金をいただいたことです。7SPのチーム一同、寄付者の皆様に心から感謝を申し上げます。そして3つ目は、大学との共同研究を通じて、素晴らしい科学的発見があったことです。内容については詳しくお伝えできませんし、まだ将来のことを断言できるステージにはありませんが、この新技術はミトコンドリア病だけでなく、多くの疾病の根本的治療に繋がる可能性を秘めていると考えております。現在、主要国における広範囲な特許化を急いでいます。知財戦略の策定と特許出願手続に関しては、米国の有力弁護士事務所が弁護士費用の全額免除を申し出てくれて、大変強力なサポートを得ています。

 7SPは多くの関係者の愛情と献身に支えられ、すごい勢いで進捗しています。小生はふと「神様が7SPを応援してくれているな」と感じるときがあります。このような純粋なエネルギーに満ちた創薬プロジェクトにおいて、各関係者が活発に連携し、プロジェクトを前に進めているのを見るとき、患者さん、そのご家族、医療関係者、アカデミア、製薬企業等の産業関係者、ベンチャーキャピタリスト、寄付提供者が皆で参加するバイオテク企業の未来の姿を垣間見る思いがします。そのエネルギー源は、難病に苦しむ患者さんを救いたいという関係者全員の共通の思いです。

 皆様方にとり新年が実り多い年になることをお祈りしております。

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