新春展望2018

変化の時代、進む研究開発と実用化のボーダレス化

(2018.01.04 08:00)
久保田文

 ライフサイエンス・ヘルスケア業界にとって、今ほど、大きな変化に直面している時代は、かつてなかったのではないでしょうか。

 治療の面では、一部の患者に確実に有効性を発揮する分子標的薬や癌免疫療法が登場したり、希少疾患、遺伝性疾患に対して有効な遺伝子治療などが実用化されるなど、「効く薬」が着実に研究開発、実用化されつつあります。また、診断の面でも、オミクス解析を駆使して、これまで診断が付かなかった患者の疾患を突き止めたり、癌患者を臓器だけでなく、遺伝子異常などからもとらえ直す動きが本格化してきました。

 もっとも、こうした診断や治療を私たちが享受するために、支払わなければならない費用も増えています。皆保険制度のあるなしに関わらず、どの国も、医療費を誰がどのように負担すべきか、さらには研究開発費をどのように下げるべきかについて、真剣に考え始めています。多くの業界関係者からは、「これからの医療を実用化するためには、今までとは異なる枠組みが必要だ」という声が聞かれるようになりました。

 その中で、着実に進むのが、研究開発と実用化のボーダレス化です。これまでは、探索研究、非臨床試験、臨床試験という研究開発のフェーズと、市販後調査も含めた市販後の実用化のフェーズは、明確に線引きされていました。しかし今後は、その線引きに大きな意味がなくなってくると考えます。

 実際、国内では、再生医療等製品に続き、2017年、医療機器、医薬品について早期承認制度が整備され、一部の医療機器、医薬品では大規模試験以外の臨床試験等で一定程度の有効性と安全性を確認すれば、早期の承認が可能になりました。患者数の少ない希少疾病などでは、こうした制度を活用する動きが活発化するのは間違いありません。

 また、癌患者の癌組織の遺伝子を網羅的に解析するパネル検査を始め、新たな診断技術の中には、従来の診断薬の臨床性能試験だけでは、どういった患者にどの程度有用なのか、データを蓄積することが難しいものが少なくありません。そうした診断技術を必要な患者に届けるためにも、研究開発と実用化のボーダレス化は避けて通れない存在です。

 研究開発と実用化のボーダレス化は、研究開発費の削減や、より早く新技術を患者に届けるといった点で意味のあるものですが、企業にとっては、新技術の価値を最大化したり、さらなる技術を創製するといった点でも大きな意味をもたらすと考えています。というのも、研究開発と実用化のボーダレス化にともなって、市販後、新技術を使用した患者のデータ、対照群である新技術を使用していない患者のデータが、今まで以上に収集されることになるからです。

 そうしたデータを駆使することで、企業は、医薬品などの適用拡大、新規の医薬品の創製などにつなげられる可能性があります。言うまでもなく、データを企業が活用できるような仕組みを作ることが前提になります。研究開発と実用化のボーダレス化を、単なる研究開発費の削減手段と捉えるのではなく、新たな可能性を追求するチャンスと捉え、本誌も、この変化の時代を読者の皆様と一緒に、切り拓いていければと考えています。本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

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