新春展望2018

バイオベンチャーの次のステージ

(2018.01.03 08:00)
中谷智子=弁理士

 新年あけましておめでとうございます。本年が読者の皆様にとって、また日本のバイオ産業にとって、実り多き年となりますよう心より祈念申し上げます。

 さて、昨年の日本の知財の領域で注目された話題としては、最高裁判所が特許請求の範囲に記載された発明を例外的に広く解釈する法理である「均等論」を広く解釈する判決でした。これによりプロパテントの姿勢が示された一方で実務家としては権利範囲を裁判前に正確に見積もることが難しくなるという新たな問題に悩まされることとなりました。

 また、ここ何年も個人的に注目している「欧州統一特許」は、域内で一つの特許権を発生させようとする欧州連合(EU)の協定です。EUの枠組みのため、BREXITによる影響を懸念していたのですが、当事者である英国はBREXITに関係なく積極的に批准に向けて国内手続を進めているようです。これは、医療・化学分野を専門に管轄する裁判所の英国における設置が定められていることから、英国にとって利益のある制度であるためでしょう。一方、統一制度に積極的であると思っていたドイツでは、欧州統一特許制度そのものが憲法違反であるとして訴訟が提起され、いつ批准できるか全く予測がつかない状況となってしまいました。ドイツの批准は制度の発効に必須のため、近いと思われていた欧州統一特許制度の開始時期も全くの未定となってしまいました。欧州統一特許制度は、世界の特許制度が統一される方向に進めるのかどうかの試金石ともなりうるため、今後の欧州の動きに引き続き注目していきたいところです。

 法制度が実務家の思惑とはなかなか一致しない一方で、革新的技術は着実に実用化に向けてブラッシュアップされていると感じています。特に、AIやディープラーニングの性能向上は、これまでの人工的プログラミングでは不可能であったいわば「直観的」概念を計算することを可能とし、医療の分野でもAIにより実現できることのアイディア勝負となっているように感じています。診断や創薬を含む幅広い医療分野でAI活用事例が報告されるようになりました。テスラが自動車の定義を変え、フィンテックが金融産業を変えたように、AIは今年を境に医療産業の構造を変えていくのではないかと期待しています。

 また、ベンチャーを取り巻く環境も洗練され、10年前はバイオベンチャーというだけで門前払いされたことがあるのですが、それが嘘であるかのように、バイオベンチャーが社会において認められるようになりました。支援も充実し、意欲のある誰もがベンチャーに挑戦してみようかと思えるだけの環境が整ってきたことは、日本のバイオ産業にとって喜ばしいことであると感じます。この好機に、大学発のみならず企業からもベンチャーがスピンアウトすることにより、バイオベンチャーの層が厚くなるとともに、企業とベンチャー間の人材の交流がより活発となることで、世界有数のバイオベンチャーが日本から多く生まれ育って欲しいと願っています。

 そして、生まれ育ったバイオベンチャーが次のバイオベンチャーの刺激となるよう、更なる飛躍を果たして欲しいと思っています。創業時~上場支援が充実した今、次の課題は上場後ベンチャーが更なる発展を遂げ、真に日本の産業を支える企業へと成長するために何が必要かという議論を今年は多く聞けることを期待したいと思います。

 最後に、本稿作成に当たり、ご意見を聞かせていただいた大切な仲間の皆様に心から感謝申し上げます。

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