新春展望2017

バイオインフォマティクスが主役になる日?

(2017.01.03 00:00)
榊原康文=慶應義塾大学理工学部生命情報学科教授

 私の所属する慶應義塾大学理工学部の生命情報学科は、生命科学の研究に情報科学を活用し融合することを目的として、まさにバイオインフォマティクスの人材を養成することをミッションとして、15年前の2002年に設立されました。ほぼ同じ時期に、文部科学省の科学技術振興調整費新興分野人材養成において、バイオインフォマティクスの人材育成を目的として、東大、奈良先端大、産総研、そして慶應の4つの拠点が採択されました。生命科学のビッグデータ時代の到来を目前として,バイオインフォマティクス人材不足の解消と人材育成の活動を日本全国に広げることも期待されていました。

 それから15年が経った現在、果たして日本はバイオインフォマティクス人材大国になったのでしょうか? 実情はまったく逆で、むしろ一時の熱狂が去った後に、後退すらしているように思えます。一方、バイオインフォマティクスの国際会議に出かけると、中国の存在感が増していて、そのパワーに圧倒されると同時に、日本人の参加者の先細りに寂しさも覚えます。

 それでは,生命科学においてバイオインフォマティクスが重要でなくなってしまったのかと言えば、次世代シークエンサーが吐き出す大量のデータ解析に代表されるように、15年前に比べて比較にならないほど、重要度は高くなっています。もしバイオインフォマティクス技術とバイオインフォマティクス技術者が消えたら、おそらく現代の生命科学は一歩も前に進まなくなるのではないでしょうか。そのため、今でも、バイオインフォマティクスの人材不足が繰り返し叫ばれて、散発的にいくつかの国家プロジェクトにおいてバイオインフォマティクス人材育成が目的に掲げられています。

 なぜ10年以上も前と状況が変わらないのでしょうか? 産業界をはじめとして、バイオインフォマティクスの教育を受けた人材の恒久的な受け皿がないということが最大の問題だと思われます。最近では、製薬会社でもデータサイエンティストの募集などが一部始まっていますが、まだ十分な規模とは言えません。日本の生命科学では、誤解を恐れずに言うと、やはり「物」至上主義であると考えられます。百歩譲って「物」が最終ゴールとしても、そこに至るまでの戦略において、どのくらい情報が活用されているのでしょうか?

 ビッグデータをフルに解析し活用して、創薬に革新をもたらしたという話はなかなか聞こえてきません。それは筆者が最新の事情に暗いだけで、日本でも生命科学に情報革新が起こっていて、バイオインフォマティクスがフル活用されているのかも知れません。もしそうであれば(そうであって欲しいのですが)、その現場で活躍しているバイオインフォマティクス技術者が多数いるはずで、結果として産業界からもっと多くのバイオインフォマティクス職種の募集があるはずだと期待してしまいます。バイオインフォマティクス研究者や技術者が主役になる日が、そう遠くない未来に訪れることを願うばかりです。

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