新春展望2017

基礎研究、ヌクレオーム、単一細胞エピゲノム

(2017.01.03 00:00)
木村宏=東京工業大学科学技術創成研究院教授

 短期的で社会貢献に直結するような成果が求められる風潮の中、生命現象の理解に向けた基礎研究は重視されないこともあります。しかし、2016年は、基礎生命科学の重要性について改めて考えさせられることがありました。

 1つは、私も所属する東工大・科学技術創成研究院・細胞制御工学研究ユニットの大隅良典栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことです。オートファジーは細胞内の蛋白質分解などを行うリサイクリング機能で、近年病気と関連が注目されていますが、受賞の対象は酵母で行われた基礎研究です。

 もう1つは、縁あって「岡崎フラグメント50周年記念シンポジウム」の世話人となり、そのシンポジウム関連イベントの中で、岡崎フラグメント発見に纏わるお話しを岡崎恒子・名古屋大学栄誉教授から伺ったことです(岡崎フラグメントの発見にはノーベル賞は授与されていませんが、基礎生物学分野で日本が誇る発見の一つであることは間違いないと思います)。DNAポリメラーゼの生化学的性質の解明から始まり、岡崎フラグメントとそれに続くRNAプライマーの発見は、DNA複製に関連した基礎研究の金字塔ともいえるものですが、それらの知見がサンガー法によるDNA塩基配列決定技術やPCR技術の開発に結び付いています。

 これらの例にあるように、生命現象の基本原理の解明に近付くことで、病態の解明や疾病の治療、あるいは、画期的な技術の開発につながることは、稀ではありません。現在爆発的に広がっているゲノム編集技術も、最初からゲノム編集を目指した研究により成立したものではなく、植物のウィルスが持つ蛋白質(TAL)やバクテリアの免疫システム(CRISPR/Cas9)の発見に基づいています。つまり、最初から「役に立つ」ことを目指さなくとも、真にオリジナリティのある研究の成果は最終的に「役に立つ」ことの方が多いのではないでしょうか。

 大隅さんが様々な機会に基礎研究の重要性を訴えて下さることもあり、2017年は、基礎生物学の研究者にとって少しは研究しやすい環境が整う可能性もあります。しかし、この時だからこそ忘れてはいけないことがあります。それは、他人の追随ではなく、新規の発見や技術開発を行ってこそ、基礎研究の重要性を主張できるということです。むしろ、研究の独創性や意義などに関して、高い意識で望む必要があるでしょう。

 さて、私が関連する細胞核やクロマチン、あるいは、それらのイメージングの分野に関して、2017年に期待したいことがいくつかあります。

1.ヌクレオーム研究の立ち上げと国際協調。これまでのゲノム研究、エピゲノム研究がさらに発展し、遺伝子発現制御やクロマチン構造など細胞核の機能と構造、及びそのダイナミクスを包括的に明らかにしようという「ヌクレオーム」研究が始まっています。米国では既に4D Nucleome Initiativeがスタートしており、EUでもファンド化に向けた働きかけがあるなど、国際的な気運が高まっています。わが国でもヌクレオーム研究の組織化が進むことが期待されます。

2.単一細胞エピゲノム研究の展開。トランスクリプトーム解析をはじめとした単一細胞オミクス研究は一段落した感はありますが、エピゲノム解析技術はまだ開発途上です。手軽に行うことができる単一細胞エピゲノム解析技術がそろそろ生まれることが期待されます。

 新年を迎え、気持ちを引き締めて参りたいと思います。本年もどうぞよろしくお願い致します。

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