新春展望2017

共生マイクロバイオーム研究元年

(2017.01.03 00:00)
大野博司=理化学研究所主任研究員/統合生命医科学研究センター粘膜システム研究グループグループディレクター

 私の拙文での役割は、マイクロバイオーム研究者の一人として、この分野の2017年の展望を述べさせていただく、ということと理解している。マイクロバイオームと聞いて「うん?」と首をかしげる方も少なからずおられるかと思う。マイクロバイオータ(microbiota)あるいはマイクロバイオーム(microbiome)は、ある環境中の微生物あるいは微生物が持つゲノム情報の総体を指す用語である。最近、腸内フローラ、あるいは腸内細菌叢と言うことばがマスコミ媒体でもよく取り上げられているが、これはわれわれヒトを含む動物の腸内に棲息している膨大な数の腸内共生細菌群、すなわちマイクロバイオータを指す。マイクロバイオーム研究の最近の急進展は、次世代シークエンサーの登場と共に一気に加速したメタゲノム解析(環境中の微生物からまとめてDNAを抽出し、そのゲノム配列を決定することで、微生物集団が持つ遺伝子を総体として明らかにする解析法)によるところが大きい。

 ヒトマイクロバイオーム研究は、2008年にEUのMetaHIT (Metagenomics of the Human Intestinal Tract)、米国のHMP (Human microbiome project)という国家プロジェクトが相次いで立ち上がったことで欧米が牽引して急速に進展し、我が国は後塵を拝してきたことは否めない。しかし本邦においても、昨年度にようやくAMED-CREST「微生物叢と宿主の相互作用・共生 の理解と、それに基づく疾患発症のメカニズム解明」が発足した。これに呼応するように、産業界においても製薬企業を中心に複数の企業の参画による「マイクロバイオームコンソーシアム組成準備ワーキンググループ」が結成され、産学官連携によるマイクロバイオーム研究推進を働きかけている。このように産学官が一体となって推進する機運が醸成された今こそ、我が国の共生マイクロバイオーム研究を飛躍させるときである、ということで標記のような展望のタイトルを考えた。

 欧米に追いつき追い越すためにも以下の2点が重要と考える。まず1つは、標準的な日本人のマイクロバイオームの全貌の把握である。様々な疾患においてマイクロバイオームの異常が発症原因となることが示唆されており、これを正常化することが発症の予防や治療に結びつくと考えられる。しかし、異常を見いだすためには、正常をきちんと把握する必要がある。上述のAMED-CRESTと企業コンソーシアムは協力して、マイクロバイオーム解析の標準(推奨)プロトコールの提言を目指している。これにより個々の研究で得られるマイクロバイオームデータの互換性がある程度担保されれば、データ共有が可能となり日本人の標準マイクロバイオームデータベース構築にも貢献できる。このデータベース整備は今後の我が国におけるマイクロバイオーム研究の基盤となるべき重要なものであり、産学官が一丸となり早急な整備が待ち望まれる。

 もう1つは、マイクロバイオームの網羅的カタログ作りであるメタゲノム解析に加え、遺伝子発現の全体像を把握するメタトランスクリプトーム解析、代謝物の全体像を把握するメタボローム解析など、異なる階層の網羅的解析を組み合わせた「マルチオミクス」解析の推進である。このような解析により、ゲノムというカタログからどのような部品(遺伝子)がどのくらいの量作られ(発現し)、どのように組み立てられて、どのように機能するか(代謝物を作るか)を解析する。マルチオミクス解析に宿主遺伝情報も併せて解析することで、宿主-マイクロバイオーム相互作用を理解し、そこから疾患の予防や制御に繋げる試みは世界的にも始まったばかりであり、産学官が一致団結して世界をリードする研究が発信できるように大きな飛躍を期待したい。

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