新春展望2017

新しい鶴嘴と鉱脈

(2017.01.02 00:25)
森田晴彦=EdiGENE社長兼CEO

 2016年はCRISPRの文字が出ないNatureやScienceの号を探すのが困難なほどゲノム編集にとって飛躍的な年であったが、そういった技術革新に続いて2017年はいよいよアプリケーションの幕開けの年となるであろう。すでに昨年10月には中国でCRISPRによって編集された細胞を投与する臨床試験が始まったことが報告されているし、米国Penn大でも臨床試験が計画されている。

 CRISPRの特許紛争を語ってみせるのは茶飲み話には面白いかもしれないが、そうやって多くの人々が躊躇している間にCRISPRの基本技術が世に出た2012年以来ずっと技術革新は絶え間なく進んでいる。昨年のNature Biotechnology10月号に特集された特許に関するレビューでも報告されているが、全体の出願の10%を超える出願を単独で出し続けるBroad陣営を筆頭に怒濤の周辺特許ラッシュが続いている。そしてそれはもうアプリケーションに及んでいる。

 抗体の時代を振り返ってみても、最終的な利益を得たものは技術そのものではなくて、それを使ってより良いターゲットに早くリーチしたものである。業界の皆さんにHumira、Remicade、Enbrelの例を持ち出すまでも無いだろうが、Druggableなターゲットは意外に集中するものである。CRISPR創薬で先行するEditas社 Intellisa社 CRISPR Therapeutics社の3社の開発ポートフォリオを見れば分かるが、ターゲット疾患は深くオーバラップしている。それらは血液+CART、肝臓、眼などの局所でかつNHEJ(Non Homologous End Joining)およびKO(Knock out)で治療できる疾患群である。

 CRISPRは我々にとっての創薬のための最新型のマイニングツールのようなものだ。ちょうど新しい切削技術によって新たにシェールガスへアプローチ可能になったエネルギー業界と同じ状態なのだ。新しい技術が出たときに、我々が選択できるオプションは基本的に2つである。

 乗るか、乗らないか。

 そして乗る場合の行動原則は一択である。早く行動することだ。

 新しい疾患治療法をマイニングできるツールを得たら、それを使って誰よりも早く良い鉱脈を掘り始めることが肝要だ。なぜなら可能性は無限に見えるようでも、簡単に掘り出せる鉱脈はだいたい限定されているものだからだ。

 特許はもちろんリスクである。しかしいずれの陣営の特許も完璧なポジションは無いにも関わらず、Novastis社、 Regeneron社、Vertex社、Bayer社といったビッグプレーヤーが次々に数百億円の投資を始めているのは、特許はどう転んだとしてもお金で解決できることを理解しているからだ。紛争になってペナルティを伴う巨額の支払いが生じるのは逸失利益が出た場合である。先に基本特許以外の領域特許を固めて特許ホルダーの逸失利益が生じない状況を構築できれば相応の特許料を払うことで和解は可能である。間違った陣営に付いて余計なお金を払うことになる可能性があるのは承知の上だ。それよりも後塵を拝して大きな機会損失を被ることの方が恐ろしいことなのだ。

 時々日本の対応であることだが、最新技術が国産でないことを理由にして躊躇するのは愚者の戦略である。ましてや国産にこだわって完成までに何年かかるか分からない、しかも今の新しい技術より優れているかどうかも分からない技術の完成を待つのは愚行というより他はない。技術に国境はない。必要なものはお金を払えば良いのである。

 競争は始まっている。

 乗るか乗らないかは個社の選択であるが、抗体の轍は踏んではならない。

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