新春展望2017

連続的な革新的新薬の創出に向けて

(2017.01.02 00:01)
岡部尚文=中外製薬上席執行役員・研究本部長

 これまでに自社創薬から生まれた「アクテムラ」、「アレセンサ」、エミシズマブの3薬剤による合計5つの適応に対して米食品医薬品局(FDA)からブレークスルーセラピー(画期的治療薬)の指定を受けることができ、我々が目指す革新性の追求がある程度結果につながったように思う。一方で、日本では、医療費の高騰が問題となり、一部の革新的な医薬品に対する大幅な薬価引き下げが決定された。この決定は、R&D型の新薬創出を追求する製薬企業にとっては、今後少なからぬ影響をもたらすと思われる。

 革新的な治療薬を創出するには、新規標的分子の探索、新たな創薬技術の開発、患者選択のためのバイオマーカーの同定など、臨床研究だけでなく、非臨床段階の様々な創薬研究にも長い年月と多くのリソースを必要とする。革新的な医薬品は、計り知れないトライアンドエラーの果てに得られる、ほんの一握りの成功であるともいえる。そのような状況にあって、いかに革新的な医薬品を創出し続けていけるかが鍵になると思う。

 バイオ医薬に目を向けると、モノクローナル抗体が医薬品として初めて臨床で治療に使用されるようになってから四半世紀が経ち、その間、抗体の改変技術も目覚ましい進化を遂げた。近年ではバイスペシフィック抗体のような高機能抗体や、キメラ抗原受容体T細胞(CART)療法といった抗体技術を施したT細胞が創製され、一部の癌治療で非常に高い効果が示されている。

 このように、1つの革新的な技術が開発されると、そこから多くの派生技術が生まれ、連続的な医薬品の創出につなげることができる。抗体改変技術が進化する一方で、抗体技術が適用されている標的分子の数は数十にとどまっている。ゲノム解析のスループットが飛躍的に向上し、より多くの遺伝子とその機能が明らかになる中で、今後は各遺伝子の機能と疾患との関連を知る必要がある。

 その切り口の1つが、いわゆるビッグデータの利用であり、バイオインフォマティックスやAIといった情報科学の進歩が、多くのヒントを提供してくれるだろう。ただし、実際の病態を分子レベルで理解するための生物学的な研究も必須であり、この病態研究にはアカデミアが有するノウハウが欠かせない。産学連携を通して、ヒトの病態を正確に理解し、適切な標的分子に最先端の創薬技術を適用することで、革新的な治療薬の創出が実現できると考えている。また、自分たちの創薬技術を病態研究に活用することで、アカデミアが行う基礎研究がより発展することも期待できる。

 産学連携が、産・学両者にとって本当の意味で有意義かつ生産性の高い活動になるよう、自らの創薬技術を磨きつつ病態の理解に努めたい。

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